オムライス
男がひとりで外食していい場所は、牛丼屋、ハンバーガー屋、そば屋、ラーメン屋、定食屋、中華料理屋に限られているので、その近所の中華料理屋のメニューに「オムライス」の文字を見たとき、俺は喜んだ。男ひとりでポムの樹には行けない。
頼んでみると、うすっぺらくかたく焼き上げた玉子焼きの下にケチャップライスが詰まったオムライスがやってきて、皿のすみっこにはケチャップの赤より鮮やかな福神漬けが乗っていた。おまけに、中華スープの入った汁椀も運ばれてきて、食べる前からうまかった。
むかし渋谷のとあるところに、「ふわっふわ」を売りにしているオムライス屋を発見して、連れと食べてみたら、メレンゲたっぷりでふわっふわに出来上がったオムライスはとても食べられたものじゃなくって、食いしん坊の俺ですら半分残してしまった。水で必死に流し込みながら食べたメレンゲオムライスは、腹の中に収まっても揺れているのがわかるもので、その日一日気持ち悪かった。体調が悪くもないのにあんなに気持ち悪くなるのは、『クローバーフィールド/HAKAISYA』を見たぶりだった。
俺に作れるオムライスは、近所の中華料理屋のやつと同じタイプのやつで、それは自分の舌にはマッチしているのだけれど、とはいえ、本当は半熟とろとろのやつ作れるようになりたい。半熟卵はうまい。オムレツを割って、とろっとろの黄金の卵がケチャップライスのうえをとろけていくのを見たらやっぱり歓声をあげてしまうし、人に食べさせるときには、ペラッペラの卵焼きでできたオムライスより、そっちの方が良いに決まっている。
でも人に自分の料理を振る舞う機会なんてないし、けっきょく自分の舌に合うものが作れればひとり暮らしそれで万事オーケーなので、俺が半熟のとろっとろの作ることはないだろう。
もちろん恋人がいるときはとろっとろのやつ作ろうと苦戦したのだけれど、何を間違ったか、ケチャップライスを床のうえにぶちまけてしまって慰められた、なんて場面しか思い出されない。