ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

夏眠

夏は季節が目に入らない。暑すぎて何も見えない。俺にとって夏は、耳や肌や舌で感じるものだ。夏を捉えるのに目は役に立たない。なかなかやってこないバスを待つ。あごから汗を滴らせ、うなだれるばかりだ。夏を見ることは叶わない。花火大会なんか行きたくない。ひまわりはどこに咲いているんだ。

 

夏はセミがうるさい。それになんだか耳の周りで常に音が鳴っているような気がする。地鳴りのような漠然とした音がずっと耳を覆っている。風鈴の音は秋の気配と共に耳に入ってくる。

肌を濡らす自分の汗はべたついて不快。肌を覆う自分の汗と大気中の重たい水分と熱の膜が俺をどこにも行かせないようにしている。肉体が固定されるぶん、意識は遠くにかすんでいく。

 

俺としては、灼熱をやり過ごすために食べるものだけが、夏の意味だと思う。

アイスクリーム、かき氷、うなぎ、すいか、きゅうり、ビール、そうめん、冷やし中華、ラムネ……そういうものを口にできることだけが夏の良さだと思う。

 

夏の暑さをやり過ごすためにプールに入るという手もあるが、あれは結局プールから上がったらまた汗かくし帰り道はけっきょく不快だ。

 

夏が嫌いだ。夏は何も見えない。せっかく薄着をしている女の子たちが街を歩いているんだろうにそれを見ることも叶わず、俺は熱いアスファルトを見つめながらだらしなく歩くだけだ。

 

だから夏はエアコンの効いた部屋で恋人とこもっていられればいい。冬眠はあるのになんで夏眠はないんだろうか……と思ってちょっとググってみたら、カエルやカタツムリ、ミミズなどが夏眠するらしいことを知った。

 

しかし俺はカエルやカタツムリやミミズじゃないし、彼らはわりと苦手な種類の生きものたちなので、いっしょにならないように夏もなんとか生きようと思う。