ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

隣の部屋に住む夫婦

隣の部屋に住む男は、いつも23時過ぎに帰ってくる。2階建ての木造アパートは、彼の帰宅を明瞭に知らせる。

男の妻は、晴れた日の朝、きちんと洗濯物を干している。ぼくらが彼女よりもはやく洗濯物を干せたことはない。一度だけ、洗濯物を干し終えた彼女が部屋に戻るとき、ベランダに出たことがある。

なんとなく、隣の部屋に住む男は、洗濯物を干さない気がする。

彼の妻は何時に起きて、洗濯機を回し、ベランダに出ているのだろう。

 

彼らは、晴れた休日には二人してサーフィンに行っているらしい。多分、女はボードを持っていない。男が波に乗るのを砂浜で見ているのだろうか、この寒い季節も、彼らは休日ふたりで出かける。

 

ぼくらが去年の秋から住みはじめたこの町、庭にシャワーがある一軒家が多い。サーファーの家の庭には、シャワーがあるということを、越してきてからはじめて知った。サーファーは庭にシャワーを欲することを知らなかった。

 

ぼくらの隣の部屋に住む男は庭無しのアパート2階に住むから、もちろん庭のシャワーも持たない。彼は、近所の家々の軒先にあるシャワーを見るたび「おれもいつか庭にシャワーのある一軒家を建てるぞ」と思っているのだろうか。

 

今日のぼくは、隣の部屋に帰ってきた男がドアを閉める音を、トイレで聞いた。ちょっと下痢気味。

妻は風邪気味なので先に寝た。

 

ぼくら夫婦ははやく東京に戻りたいね、と笑いあっている。