髪の毛を食べました
彼女の髪の毛が2本、枕元に落ちていて、それを拾い上げたぼくはノートの1ページを破って、包みました。当分、もしかしたら永遠に会えなくなるかもしれない彼女の髪の毛を保存しておく、どうしても保存したいんじゃなくて保存しておく、なぜなら、ロマンチックな感じがしたから。
でも、その髪を包んだ紙を無くしてしまいそうで、その紙から髪がすり抜けてなくなってしまいそうで、そんなことになったらやっぱりガッカリする。髪の毛がなくなったら嫌だな、とは思っていて、ちょっぴり、本当に少しだけ不安、なくなりゃしないと思う気持ちの方が強い。でももし無くしてしまったら、彼女への想いがそれまでだったような、負の証になってしまうような、そんな気がしてしまうんです。
だから、テーブルの上に置いてあったそのノートの1ページを開いてまだ残っていた髪の毛2本を食べました。食べたいから食べたのではなく、食べたほうがロマンチックだから。無くすくらいなら食べちゃお。
長いその髪の毛を舌に巻きつけて丸め、ゆっくりと噛みました。もちろん味なんてしません、ただ歯ざわりがある。硬くはないけれど容易には噛みきれない、しっかりと上と下の前歯を合わせないと分離しない掴みどころ(噛みどころ?)のなさだけがあります。
やがて咀嚼するのも面倒になって、飲み込みました。しかし、まだその髪の毛は喉の奥に張り付いています。