ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

「めんどくさい」んじゃなくて「こわい」

「明日はきっといい日になる、いい日になる、いい日になるでしょ、おー♫」みたいな歌詞、バカのひとつ覚えで口ずさんでしまう、きのうあんなブログ書いたのに。
キャッチーなメロディーでポジティブな歌詞を歌うな。ポジティブ方面、ネガティブ方面、どっちに行かされたってキャッチーなメロディーによる気分のこすりつけは洗脳だ、キャッチーなメロディーを使うならせめてわけのわからないことを歌え。というか、最後の最後で「なるでしょう」と言うな、逃げるな、「でしょう=だろう」はずるい。「断定の助動詞『だ』の未然形+推量の助動詞『う』、《不確かな断定》あるいは《推定の意》」ってなんだよどっちだよ。天気予報かよ。断言するならちゃんとしろ。しろ。
ちなみに高橋優は「ボーリング」までめちゃくちゃ好きだった。ああめんどくせえーってやつ。

この歌を松屋の有線で聞いたとき、しびれた。あの頃おれはまだ大学生で、就活を控えた若者で、高橋優という名前は知らなかったけど、(多分)がんばっている人ががんばってめんどくせえと歌っていることに、いたく感動した。


この歌に影響されたとかそういうわけではなく、めんどくさいなあ、が口癖だったおれは、ある日の日高屋で当時の親友に「めんどくさいって言い訳にもならないしやめろよ」って言われた。それ以来なるべくめんどくさいは言わなくなったけど、言霊はとっくに心と頭と体に憑依していて、もうおれそのものがめんどくさい。おれそのものがめんどくさい。

日高屋で飲んだときの彼は、たぶん、2年目の就職活動に本腰入れて取り組んでいて、対するおれは真剣にやるわけでもなくかといって全く活動しないわけでもなくだらだらとたまにリクルートスーツを着ていた。ことしの就活で決めないとさすがにヤバいとなぜか(なんでかはわからずじまいだそういえば)焦っていた彼は、6年の付き合いだけど、あの時期だけ本当にこわかった。おれのこのスタンスが許せなくて、えらくケンカ腰だった。内定をもらった後の彼は持ち前の人当たりの良さを取り戻し、万人と仲良くしていたけれど(そう、おれの数少ない友人というのは全員、誰にでも好かれる人だ、少なくとも誰をも不快にさせない努力のできる人だ、だから、それは寂しい)、彼に「あのときのおまえ、切羽詰まってて感じ悪かったよ、そりゃあしょうがないけどさ」と言ったら「そうだったけ、覚えてない」と笑っていた。

彼は就職に伴い、この町から旅立った。毎週必ず飲んでた、呆れるほどよく顔をあわせたおれたちは、この1年間で3日しか会っていない。彼とは風俗に行こうかといいながらビビって行けず、あのオシャレなバーに入ろうと言いながら店の前をウロウロして結局帰ったり、背伸びして入ったクラブでの振舞い方が分からず終電で帰った仲だ。そんな彼はいまでは風俗嬢に仕事を辞めさせて家に泊めたり、バーを貸しきって同期との飲み会を企画したり、そしてなにより、じぶんで稼いだ金で生活している。
おれとあいつは、できないことを楽しんでいた、精神的童貞を謳歌していた、あの扉の向こうでどんな破廉恥な夢が待っているのか、扉を開けずに楽しんでいた。
たまにあいつが夢に飽きて扉の向こうの現実を見たがるとおれは、「めんどくせえよ」と言って帰っていた。

夢を見るならふたりがよかった。現実はこわかった。でも、いつの間にか、俺のほうが苦しい現実にさいなまれて、あいつは夢の中で遊んでいる。