ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

あしたもきっと与えられるし与えられたいし与えたかった

おれはとても甘やかされてきた人間で、たとえば、大学受験のために上京したとき、おれが受験に集中できるようにと父も着いてきてくれて、試験が終わってから彼は東京は丸の内のビルで「合格前祝いだ」と言って憧れてた腕時計を買ってくれた。そして翌年、おれはひとりで受験しに行った。「合格前祝い」はいつのまにか「卒業祝い」と呼びかわっていた。

幼いころ、何が欲しかったのかは忘れたけど、お目当ての食玩がいつも行くスーパーになくて悲しんでいるおれのために、母は車におれを乗せてスーパーやらコンビニやらを何件も回ってくれた。何が欲しかったのかも、けっきょく手に入ったのかどうかも、覚えてないけれど、あのとき訪れたスーパーの夜を照らすネオンは、強烈に印象に残っている。

風邪をひいて寝込んでいるときに父が買ってきてくれた週刊少年ジャンプ、上京前におれがこれかっこいいよねと雑誌で見せたカバンは母が「アウトレットで売ってたから」と宅急便で送ってくれた、大学生になってからは誕生日には毎年お金をたくさんくれた。

おれはいままでこれらの贈り物のせいで、じぶんがニートになってしまったなんて思っていた。彼らはおれが欲しいものを、それが彼らに与えられないものでない限り、与えてくれた。もちろん我慢させられることもあったし、なんでもいつでも買ってくれたわけじゃない、たまに彼らがくれた贈り物をおれはそのときは喜んでいた、のに、いつのまにか、それらの贈り物をじぶんがニートになった「原因」にしていた。
彼らは確かにおれを人並み以上に甘やかしてくれたけど、それは純粋にやさしさだったし、子供には不自由をさせたくないという親心だったわけで、それをあげつらって、「お前らがなんでも与えるからおれは働けなくなったんだよ」なんて言っていたおれは、本当に甘えていた。そうだなあ、甘やかされてたんじゃなくて、ただ単に甘えてたんだなあ……。

たしかに、彼らは与える親で、じぶんで稼いでじぶんで買う、という生き方は教えてもらえなかった(そもそもいま働いている人たちはみんながみんな親にそういうことを教えられたわけじゃないことはわかっている)、それがニートを作る原因である、とは言えると思う、どっかのニート本とか無職者のための就業支援本とかにはそう書いてあるかもしれない。アフリカの貧しい人たちを支援金漬けにして働く意味を奪ってはダメだ、魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えなさい、というのは正しいことなのかもしれない。いや、確実に正しい。
でも、おれがその原因に助けられて、いまのおれをさらに甘やかしていい理由にはならない。ならないんです。

おれがニートになった理由は他にもあるし、原因はいつだって複合的だからこそ長期化している問題の解決は難しい、その絡まった糸を誰かにほどいてもらうのをただただ待っていたし、その中のたった一本を悪者にして、悪者に全責任を押し付けていた、じぶんの人生なのにね。


いま、おれはわかっているようなことを書いている。まるで、明日からニートじゃなくなるみたいに書いている、でもこの部屋、この椅子、この机、このパソコン、この光、この暖房、このジャージ、すべて(本当にすべて!)父から与えられたもので、ぼくはなんにも変わっていないし、明日もきっと変わらない。ぼくは徹底的に与えられているし、これらをすべて捨てて自力で明日から生きるんだ、なんて急にできない、こわいしつらい。いまある豊かさを急に捨てる勇気は、ない。腰も痛いし寒いしちょっと頭痛もするし、明日から精力的に職を探すなんてできない、やらない。おれはそういう人間になってしまっている、良くも悪くも、そう、良くも悪くも、幸か不幸か、なんです。


おれの文章にはやっぱり徹底的にじぶんしかいないなあ、25歳になる長男の全生活を支えている父の気持ち、こんな兄を持ってしまった兄弟の気持ち、他にもいろんな人がおれの無職に傷ついてきた。なのに、それでも、良くも悪くも、幸か不幸か、なんて言う。その場合の良いと幸せの部分はおれだけが摂取して、残った悪いと不幸の部分は彼らが食べてるんだよ。わかってはいる。それでも、それでもが着いてくる。

おれはいつも、「わかった」と言うけど、本当にわかったことなんてないんだろう、さいきん数少ない友人たちがみな、示し合わせたわけでもないのに、おまえはまたわかったって言ってるけどそんなの嘘だよ、と言う。わかった、ってなに、頭ではわかっているけど、心が受け付けないんだよ、それはわかってない、でいいのかな。


まだまだ甘えたいし、甘えたかった。まだまだ与えられたいし、与えたいし、与えたかった。なんでおれはこんなに求めているのだろう。不足したことなんてないはずなのに。努力しなくても満たされるのが常で、満たされている以上に満たされたくて、そんなんだからこんなんなんだね。

ああ、ひとつだけわかったのは(これは本当にわかっただとおもう、おもいたい)、甘えたかったり与えたかったり、その相手がいなくなったら、後悔するってのは、経験で知っていた。