「こだまの速さで毎日は」
phaさんにならって、ここ1、2年のあいだにこのパソコンに取り込んだ音源をGoogle Play Musicにアップロードしているのだけれど、ぜんぜん終わらない。僕はパソコンの扱い方がよく分からないから、もしかしたらこんなに取り込む速度が遅いのは、パソコンに問題があるのかもしれない。それとも、これがふつうの速さなんだろうか。昨日から断続的にやっていて、かれこれ7時間くらいは経っていると思うのだけれど、いまのところ1397曲。残り600弱。
「最近追加した曲」というプレイリストに、最近追加した曲500曲が自動的にリスト化される。再生時間にして36時間半らしい。2000曲弱アップロードしたら、単純計算36.5×4で146時間。
僕はそんなにたくさんの音楽を聞くんだろうか。
遠距離恋愛をしていたころ、恋人に会うために何度も新幹線に乗った。時間だけはあるから、こだまに乗った。時間だけはあるなら深夜バスに乗れよという話なのだけれど、あいにく体力と根気がない。無職は月に1回、こだまに乗った。
新横浜発14時16分、新大阪着18時ちょうど、10200円。こだま661号。
少しも疲れずに恋人と再会して、夕飯も食べずに家に帰って、いっしょにベッドに入る。
新幹線の速さで毎日は
過ぎて行くということを誰も知らない
正月にはお参りをして
神社の上空プラスティックみたいな飛行機 飛んでいる前野健太「新幹線の速さで毎日は」
はつもうでに行ったことがない。もともと行かなかった理由はたぶん、母が父の信仰を尊重したから。家族ではつもうでに行くという習慣がなかった。でもけっきょくは、めんどくさいから行かなかったんだと思う。高校時代、友人にはつもうでに誘われても行かなかった。正月から彼らとテンションを合わせるより、家でダラダラする方が性に合ってた。
恋人ができてから、はつもうで行こうね、と話したのは最初の1、2年のことで、僕はもちろん彼女となら行きたかったのだけれど、僕は毎年年末年始はいやいやながら実家に帰らなくてはならなくて、だから、けっきょく東京に帰ってきたころにはなんとなく年始の高揚感は薄らいでいて、彼女とは「あけましておめでとう」と改札前で照れながら言葉をかわして、適当に昼飯を食べて、いっしょにベッドに入った。
むかしの人が、人間の移動感覚は、電車についていくのがせいぜいで、この「新幹線」とやらは日本人の時間間隔を狂わせるだろう、なんて言っていたのをどっかで読んだ覚えがある。狂ったのかなんなのか知らないけれど、前野健太いわく、日本人の毎日は「新幹線の速さ」になってしまっているらしい。らしい、と言うのは、新幹線の速さで毎日は過ぎて行くということを僕は相変わらず知らないからだ。
僕は、中途半端にこだまなんぞに乗っかって、中途半端な速さと快適さに甘えていた。
恋人と別れ、毎月1回こだまに乗るためのお金を仕送りのなかから工面する必要がなくなって、僕はその余裕で、いつもより多くライブに行き、映画を見、飲みに行き、ディズニーランドにまで行った。
恋人に会うために諦めていた色々なことが少しだけ多くできるようになった。
ひとりの時間を埋めるために、図書館で借りてきたユーミンなんかを聴いたりする。『風立ちぬ』をいっしょに見て、ふたりで号泣したことなんかを思い出してしまう。
こだまの速さで僕の毎日は進んでいる。どこに。どこかに。