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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

母から最期のgood-bye

とつぜんの死で、なかなか受け入れられなくて、だから私はこうして話しています。


その日の前から、だいたい2週間前から、違和感はありました。風邪だと思い、市販の薬を飲んだら持ち直したので、やっぱり風邪だったんだと決めました。


風邪ひいちゃって仕送りできませんでした。来週でも大丈夫?とメールをしたら、息子がすぐに電話をかけてきて「おれは大丈夫だけど、母さんは大丈夫なの? きょうテレビで脳梗塞の特集してたけど、母さんも気をつけてよ。健康診断したら?」と言いました。いくらか体調の良くなっていた私は、縁起でもないこと言わないでよ、と少し怒ったのですが、息子の言うとおり病院に行っていればよかったな、といまとなっては思います。
しかし、そのときは本当にじぶんは大丈夫だと思ったいたし、それに上京した子供たちに心配はかけられません。
そして……私は病院が嫌いだった。いまとなっては本当に馬鹿だったなあと思います。

でも、いつもは全然メールの返信さえくれない息子が、私を心配してすぐに電話かけてくれたのは嬉しかったな。


それから2週間後、私は死にました。倒れる前日、体が本当にしんどかったけれども、食べなきゃダメだ治らないと思った私は、コンビニでサラダやらなんやら買いました。けっきょく食べれなくて冷蔵庫に残してしまって、それを子供たちに片付けてさせてしまって、そのことは謝りたいです。死人の、生きていた、生きようとしていた痕跡は、遺された人にとっては、残酷なものです。


けっきょくその夏の暑い日、どうにも体がおかしくて仕事中の夫に「病院に連れてってくれ」と電話しました。どこかの会社の方と打ち合わせ中だったのに彼は家に帰ってきてくれて、救急車を呼び病院まで運んでくれました。いろいろあったけど、けっきょく頼れるのは彼だけで、だからなんだかんだ感謝してるよ。私たちのあいだに愛はもうなかったけど、互いにもっと思いやることはできたんだろうなって思います。本当にごめんね。ありがとう。


運ばれているあいだ、いままでに感じたことのない痛み、というか体の違和感で朦朧としていました。出産するときだって痛みを感じられたのに、そのときは痛みを感じることすらできず、私そのものが痛みのような感じでした。ただただ、じぶんの体から引き剥がされるような引力だけを感じました。何かを考える余裕はありませんでした。

本当は夫に、子供たちに「好きだよ」って伝えてねって言いたかったのに。でも人間はけっきょく体に生かされていて、だからあのときの私は何も考えられなかったし、言えなかった。後悔があるとすれば、子供たちに愛していると最期に伝えられなかった、そのことだけです。本当はもっと言いたいことはあるけれど、ワガママを言わせてもらえるならそれだけは、夫を通じてでも、言ってやりたかった。

けっきょく私は病院に着いたころには意識を失って、子供たちが東京から駆けつけてくれたときには、ただ口をだらしなく開けて呼吸させられているだけでした(子供たちはいつもの寝顔と変わらないとか言っていました)。
それから3日間もダラダラ生きてしまって、なんだか申し訳ない気持ちになりました。ただ私が死ぬのを待っていた子供たち、夫の気持ちを思うといたたまれなくなるんです。
でも、急にいなくなるよりは、3日間だけでも灰のような骨ではなく、体ある私といられて、彼らも良かったんじゃないかな。いまとなってはそう思えます。
息子は「おれたちが母さんの死を受け入れるために、いま母さんは生きてくれてる」と言いました。本当に、おとなになったね。

 


でも、私が死んでしばらく経ったのに、きみはまだ働いてないんだね!
親が死んだらさすがに一念発起するかと思っていたけど、相変わらずきみがダラダラと毎日を過ごしていて、心配になります。

ううん、生きていてくれればそれだけでいいと、本当は思っているの。あなたは確かに働いてないけど、ふつうの人とは違ってしまっているけど、あなたはちゃんと成長している、と私は思っています。私のお葬式も取り乱すことなくちゃんと振舞っていて、頼もしかったよ。兄弟にも毎日やさしく接していたしね。


それでも私がきみを心配しているのは、きみが自分の生きたいように生きているようには見えないからです。せっかく与えられた、私とお父さんが与えた自由と余裕を、あなたは楽しんでないでしょ? 私はきみが就職できてないことじゃなくて、きみが元気に楽しく生きていないことが心配です。生きてるときは色々言いたいこともあったけど、いまはひとつしかないです。元気に楽しんで生きて。それだけです。

こっちは思いの外、快適です。と言いたいところだけど、やっぱり死ぬってのは無です!天国なんてないんだね!でも地獄もないから安心してください(笑)。


無な私に語らせるきみは残酷な人です、でもそれできみが元気で楽しく生きられるならなんだっていいよ。きみと、きみの兄弟の子供、つまり孫たちを抱きたかったなとは思うけど、そんなことよりも、きみたちの人生が、健康に、楽しく過ごされていけば、それだけで私は満足です。

 

P.S. 彼女にフラれたみたいだけど、当然です! きみのお父さんだって、きみの年頃には、なんだかんだしっかりしていましたよ! 今からは想像もつかないかもしれないけど、お父さんはかっこよかったんだよ(笑)。 とにかく、きみがしっかりしてなくちゃ、結婚はできません。
私はきみにちゃんと働けなんて別に思わないけど、彼女といっしょになりたいんならそれくらいは努力した方がいいと思います。

マイペースに、食生活には気をつけて、頑張ってね。