ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

ZOC1stワンマン「We are ZOC」感想文

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大森靖子が生んだZOCのZepp Tokyoでの1st ワンマンライブ「We are ZOC」は、想像をはるかに上回るクオリティとエモーションをぶちまけていた。その最大瞬間風速は、あらゆる呪いやしがらみ、過去をねじ伏せて旋風を巻き起こす彼女たちは、高純度の「今がいちばん幸せ」を体現していて、まんまともらい泣きさせられた。彼女たちのその幸せがいつまでも続くことを祈ってしまう。これがアイドルを推すということか、と気づいてしまった。

 

誕生の瞬間を知っている唯一のアイドルグループ「ZOC」のライブを見るのはこの日が3回目。1回目は去年9月18日に行われた大森靖子の生誕記念ライブでのお披露目だった。

はじめてのステージでは、大森靖子の既存の楽曲のみをパフォーマンスしていたZOC。そのときのライブを僕は次のように感想していた(書き残しておくってほんと大事だな)。

大森靖子の歌を体を使って表現する行為は、とても危うく、それでいて抗えない魅力がある。大森靖子の歌を解釈したうえで、踊り歌えば、その人の本質は根本から変わるだろう。それは、ワクワクすることであると同時に、恐ろしいことでもあると思う。これまでの自分とは決定的に変質してしまう、その変化によって、それまでのあいだに作りあげた自分がまったくなきものになるかもしれなくて怖い。でも、その恐怖は希望と表裏だ。

今読み返すと、僕が完全に間違っていたことに気づく。ZOCのメンバーはみな、「これまでの自分」を変えたくなくて(あるいは変えられなくて)、どうしようもなく自分自身でしかありえなかったその心と体を守り抜くために、大森靖子のもとに集ったのだった。

僕は、大森靖子の歌を聴くことで様々な真実を知り、生き方が変わった人間だから、ZOCの彼女たちも僕と同じように変わりたくてグループに加入したのだと思い込んでいた。しかし、ZOCはみな、大森靖子の歌を聴いて、「これは紛れもなく私たちのことを歌っている」と思ったのかもしれない、救われたのだろう。だから、大森靖子の描く歌をパフォーマンスすることは、自分自身の存在証明に他ならなくて、その行為はこれまでの自分を“なきもの”にするのではなく、自分を確立していくことだった。

 

2度目は今年の「ビバラポップ!」。気合十分の彼女たちに圧倒された。パフォーマンスはまだ覚束ないようにも見えたけれど、それを補って余りある感情が炸裂していた。はじめて生で聴く「family name」には当然のように泣いた。

 

 

そして今回のワンマン。正直に言えば、この日どんな素晴らしいパフォーマンスが見れるんだろう!という期待はあまりなかった。めでたい場になんとしても駆けつけたいという思いだった。節目を目撃しておこうなんてな具合に、スタンプラリー的に楽しみにしている節があった。

しかし、僕の予想はいい意味で裏切られた。彼女たちは、この1年たしかに進化を遂げていた。日本中でライブをしてきたし、個々の活動も充実していた。僕は何も見ていなかったから、この日を見くびってました。ごめんなさい。

 

ひとりずつ登場した彼女たちの崇高さに目を釘付けにされる。凛として登場する藍染カレン、冷徹な眼差しで前を見据え歩く戦慄かなの、香椎かてぃのふてぶてしさ、西井万理那の天真爛漫、兎凪さやかのキュートネス、そして大森靖子から迸る気合と自信を見ただけで、「このライブ、来てよかった」と確信。

 

「ZOC実験室」に始まり、「GIRL'S GIRL」と大森靖子の直近のアルバム『クソカワPARTY』の楽曲をパフォーマンス。

 

 

 

ステージ上空には巨大なシャンデリアが下がり、垂れる真紅のカーテンが彼女たちの舞台を象る。フロアを射る鋭いレーザービームに高揚させられ、ZOCのためだけにあつらえた音響が彼女たちの地力を正確に伝えてくる。

かなり後方から見てたので、メンバー全体が見えることは一度もなかったけれど、スクリーンがステージ上方にあることで、メンバーひとりひとりの表情や動きが観れたのは嬉しかった。

 

MCを挟んでの「IDOL SONG」に泣かされる。数多のアイドルの自己紹介を繋いでいく歌詞は、まるでレクイエムのようだから。「私はここにいます」というアイドルたちの叫びを可愛らしくコーティングしたこの曲は、愛に満ちている。それを今ZOCが歌っていることの奇跡と刹那に胸を締め付けられる。

 

チャイニーズっぽいビジュアルの映像をバックに、初披露された「断捨離彼氏」はハロプロ感あるダンスミュージックで、「だんだん 男子全員今キモい」と歌う。

男子としてちょっぴり切ない気持になりつつも、「泣いて叫んでれば様になる」恋愛で、「アドレナリン出て楽しかった」けれど、「でも、それだけ」と言い放ち、過去の男に「バイバイ」する清々しい曲で好きになった。「これが恋って騙せないよ そんな魅力ニセモノだよ」と、くだらねえ男との日々を脳内物質の見せた錯覚だと教え諭して唾棄させる曲、僕も大学生のときに聴きたかったよ。大学生の頃の彼女は、僕が大森靖子の話をするとイヤそうな顔をしていて、それがとても辛かったから。もっと早くバイバイすればよかった!こんな後悔ダサすぎるから、さっさとバイバイできる人間になろう。

 

ソロ曲コーナーも素晴らしかった。他己紹介的リレー形式のメンバー紹介がVTRで流れ、ひとりずつパフォーマンスする流れで飽きない。

楽曲は戦慄かなの「more きゅん奴隷」と、西井万理那「それな!人生PARTY」が気にいりました。

戦慄かなのがリズミカルに歌う「more more きゅん more more きゅん くれよ」のリフレインに不覚にもときめく。この日の戦慄さん、へそ出しで白く艶めかしいくびれを見せていてただでさえ魅力的だったのに、ダンスもしなやかで、イメージ上の戦慄かなのをはるかに上回る魅力を放っていてドキドキしてしまった。「断捨離彼氏」のセンターも戦慄さんだったので、彼女のアイドルとしての魅力にようやく僕も気づきました。

西井万理那はステージを縦横無尽に駆け、フロアにカラーボールを投じながら、後半は歌もそっちのけに笑顔を振りまく。魔法の「それな!」でどんな不幸も解除するこの曲は、彼女のイメージにぴったりで微笑まい。

藍染カレン「紅のクオリア」はセーラームーン&宝塚でステージセットにもっともマッチしていてゴージャスだったし、兎凪さやか「愛モード」はくどいほどにキュートでむせ返る。香椎かてぃ「仮定少女」は彼女の業をちょっとコミカルに、ヤンキーテイストでクールだった、かてぃさんの重心ちょい低い振舞い、様になってました。

大森靖子「非国民的ヒーロー」が鳴ると会場はボルテージが一段上がった。声を枯らさんばかりに歌う大森さんからは、超歌手としてZOCのメンバーたちに負けてられないという気迫を感じる。

 

「draw(A)drow」では、上手のお立ち台のうえに立つ大森さんが、下手側に立つ藍染さんに向かって真っ直ぐ腕を伸ばし、指差す姿が神々しかった。

 

ZOCのデビューシングルにして今年最強のロックナンバー「family name」を披露し、新曲「A/INNOCENCE」を初パフォーマンス。新曲は、上品なイントロと「愛のセンス」と「A INNOCENCE」の一致に感動したことだけ覚えてる。個人的に、最近イノセンスの尊さ、それを守ってやることについて考えていたりしたのでグッと来ました。

 

ZOC、みんな修羅場潜ってきてるから、ストリートワイズなクレバーさがあって、かっこいい。結成1周年だというのにMCがスムーズで、ダレることないのが地味に嬉しい。

アンコールのMCでは、ひとりひとりが思いのたけを語っていたけれど、泣きながらでも滔々と喋り抜けられるのは、日々の思考の蓄積の賜物なんだろうな。僕は平静でも、あんなに喋れない。

 

生ハムと焼うどん」時代の挫折から返り咲き、再び大きなステージでパフォーマンスできた喜びを涙ながらに語る西井万理那の「金ももらえるし」発言には笑った。ああいうシビアな話もあっけらかんと話してしまえるにっちやんの尊さ。全員MCでも、会話が途切れたタイミングで、すかさずフォロー入れるあの反射神経が素晴らしくって、彼女はZOCを社会に接続してくれる要だと思った。ZOCでは、大森さんの次ににっちやんが好き。

 

香椎かてぃの「カレンは部屋から出てきてくれて、かなのは少年院から出てきてくれて、にっちやんは生うどんから抜けてくれて…あ、抜けてくれたわけじゃないか。さやぴは…なんとなく女子大生しながらZOCにいてくれて」というMCは、彼女のソロ曲「仮定少女」の「家ねえよ!」の叫びと密接にリンクしていて泣けた。それぞれのしがらみからもがいて抜け出してZOCに集ってくれて「ありがとう」という感謝が集約されていた。

 

「なんとなく女子大生」と言われた兎凪さやかは、ZOCに入ったことによって最も苦悩した人なんじゃないかと思う。MCでは「私なんかがZOCにいちゃいけないんじゃないかと思った時期もある、ステージを大切にしている靖子ちゃんの前でこんなこと言っちゃういけないのかもしれないけど、ステージに立つのが辛かった」と話していた。インタビューでも「グレた時期がある」と語っていた。たしかに、メンバーそれぞれアクが強く、拡散力のある個性を放つZOCにあって、さやぴの「自撮り詐欺」や真っ当にかわいいアイドル性の高さは、むしろ「ふつう」で、面白みがないものとして捉えられてしまいかねない。

しかし大森さんは兎凪さやかの強さを「理想のかわいいが知らない誰かではなく自画像である」とピンポイントに言い当てていた。誰かに化けるのでなく、ひたすらに自分を高めていく孤高の闘いを積み重ねる彼女こそが、実はZOCの信念の部分を体現しているのかもしれない。

兎凪さやかに対して紋切り型からはみ出した肯定の言葉を注がなくてはならないと思う。大森さんも「よそ見するとすぐ拗ねるので丁重に好きでいてください」と言っているので、迅速に。

 

涙を流す戦慄かなのがあまりうまく喋れなくなるのもグッときた。バラエティ番組にも出て、ZOCを知らない層に最もリーチしているであろう彼女。話し慣れているはずの彼女が、感情に飲み込まれて嗚咽する様に、こちらまで動揺してしまう。紛れもなくアイドルだった。「人生終わったって思った瞬間が何度も何度もあった」と泣きながら話す彼女に勇気をもらった。

 

MCトップバッターだった藍染カレンは、それ以降の涙のMCの流れには乗っていなかったけれども、「世界でいちばん幸せ」という嘘偽りのない真っ当な気持ちを率直に言っていた。藍染さんのすっくとした佇まいと、微妙に前のめりな話し方のアンバランスがとても愛おしい。引きこもっていたからこその、純粋培養感が未だ抜けきっていないところが、可憐。彼女がこれからどれだけ洗練されていくのかが楽しみでもあり、切なくもある。

 

大森さんは、「family name」という曲が自分にしては珍しく「神様がくださった曲」だと説明した。ミスiDとは関係なく音楽活動を始めていたにっちやんと大森さん以外のメンバーは、本名でなく芸名で活動している。自分の意志と無関係に与えられた名前から離れ、自分で決めた名前で生きる彼女たち、family nameという呪いから解き放たれた彼女たちが、最後にアカペラで歌った「family name」の美しさにひれ伏した。彼女たちの声は1年前よりもはるかに力強く、自信に満ちている。

 

正直、Zepp Tokyoでのワンマンライブがここまで良いものになるとは思っていなかった。彼女たちのためだけに拵えられたステージや演出、そして客がいれば、彼女たちの輝きはここまで煌めくことができるのだ。Zeppは通過点に過ぎない。ステージのデカさに怯むことなんてなく、彼女たちはステージに《生かされて/活かされて》、さらに飛躍していくんだろう。アイドルを見るって、こんなに楽しいことなんだな。もっときちんと、彼女たちの瞬間を見届けたい!刮目!アフターパーティー行きたい。

 

余談ですが、ZOCワンマン、アルコールの提供していなかったので、半強制的にシラフでクッソ生きてやることもできてよかったです。