ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

てーるー

僕がまだ小学校に入るか入らないかのころ、近所の友だちは少し変わっていた。熱いアスファルトの上をいつも裸足で走り回る姉弟と、ちょっとだけ知恵遅れの少年。少年のことは「てーるー」と呼んでいた。
その3人とよく遊んでいた。何をしていたかなんて覚えちゃいないが、近所の空き地に資材置き場があって、休みの日にはそこによく集まっていた。

 

ある日曜日、僕は家族で小旅行に行くからと、彼らとの遊び場に行かなかった。
翌日、資材置き場の周りには規制線が張りめぐらされていた。次の休みから僕らは集合しなくなった。

 

母から聞いたところによると、僕が行かなかった日曜日、彼らは資材置き場で火遊びをしてちょっとした火事を起こしてしまったらしい。そもそも子供が自由に出入りできる状況がまずかったからだろう、その資材置き場はすぐに撤去された。
「まさかあんたはあそこで遊んでたりしないでしょうね」と母は聞いてきたが、「行くわけないよ」と嘘ついた。

 

それからちょっとして、姉弟の両親は離婚して、彼らはどこか遠くへ引っ越した。

てーるーと僕はたまに遊んでいたが、学年が上がると彼は養護学級に通うようになった。彼は同級生にも軽くいじめられるようになって、僕もてーるーとは疎遠になった。学校の廊下ですれ違うたび話しかけてくるてーるーとは、以前のように会話を交わしたが、そのあとで「なんでお前てーるーと喋ってたばー?」と友だちに聞かれると「喋ってんし!」と答えるのが常だった。

 

僕の実家には、彼とふたりで写った写真がある。実家の庭で、フリチンになって水浴びをしている、満面の笑みの写真。

 

高校生になってしばらくしてから、作業着に身を包んだてーるーと近所のバス停ですれ違った。「いま職業訓練してるよ」とあの頃と変わらない笑顔で、てーるーは言った。「今もこの辺に住んでるの?」と聞くと彼は「今日はおじいちゃん家に来ただけだよ」と答えた。それ以来、てーるーとは会ってない。

 

てーるーがどんな子だったのか、今となってはぜんぜん思い出すことができないのだけれど、彼の笑顔だけは忘れていないなと、この文章を書きながら気づいた。それはまあ写真が実家にあるから、なのかもしれないけど。

 

てーるーは今どこで何をしているのだろう。なんで突然てーるーのことを思い出したのかもわからないが、ブログを書こうとパソコンを開いて小一時間悩んでいたら、ふと、てーるーのことを思い出したのだった。

てーるーはきっと、僕のことをふと思い出したりはしないだろう。なんとなく、そう思う。彼には過去がなさそうだから。
でも、僕が10年ぶりに突然目の前に現れても、彼は「らさー! ひさしぶり!」と言ってくれるんだろうな、と思う。そういうヤツだった気がする。