ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

ホームセンターに行った。

ホームセンターに行った。

自宅最寄り駅から3駅10分、そこから徒歩25分のホームセンター。

 

ホームセンターはどこも同じような匂いがする。なんの匂いかといえばホームセンターの匂い、としか言いようがない。木材とか、肥料とか、これからペットになる動物とかの匂いが入り混じった独特の香り。とても懐かしい気持ちにさせてくれる。

ひとりでホームセンターに行ったのは人生初めてで、目的は、なめてしまったネジを回すための「ネジすべり止め液」と、代替ネジと、猫じゃらし。

 

ネジ頭を潰したのは、通販で買った靴箱の組み立てるときのこと。結論から言えば、説明書をしっかり読まなかったために、指定の場所に適切なネジを挿入できなかったのだ。蝶番部分の穴に、横揺れ防止部に使用すべきネジを無理やり入れてしまった。

組み立てに悪戦苦闘しているときは、「なんでこのネジは全然回ってくれないんだ、不良品か?」と思いながら、力任せにドライバーを回していた。そうしたら、いつのまにか取り返しのつかないほどに、ネジ頭はぶっ壊れてしまっていた。引き返すことも進むこともままならないネジ。なんでそんなになるまで、一心不乱、かたくなに、僕は回し続けてしまったのだろう。途方に暮れながら、ふと組み立てキットを見たときはじめて、自分のミスに気づいたのだった。

 

ここまで読んでくれた方に驚きの報告をすると、このとき僕は4つのネジ頭をつぶしてしまった。最初の2つは、完全につぶれてしまう前になんとか穴を埋め尽くしてくれたから(でももう外すことはできないだろう)、残りの2つも気合いでなんとかしようとしたのだ。しかし、握力も集中力も低下したからだろう、残り2つはネジが最後まで回ることはなかった。

僕は「自分は説明書に従っている」と信じて疑わなかった。勘違いしてるかも、なんてみじんも考えなかった。ただ、「俺は本当に不器用だ……」と斜め下方向に落ちこんでいた。不器用だから、ネジをつぶすんだと思っていた。不器用ではなく、不注意なだけだった。

 

ということで、ホームセンターには替わりのネジとつぶれたネジをなんとか回すための道具を買いに行った。

財布の小銭入れのところに入れておいたネジを取り出して、棚に所狭しと並ぶネジの中から同じサイズのものを探しあてた。同じコーナーで、ねずみ色の作業着を着た若い男が、メモを見ながらネジを探していた。見るからに日常的にネジを触っている彼でもネジを買うときはメモを頼りにするのか、と思うと、少し勇気が湧いた。若い男は、床に置いたプラスチックの買い物カゴを足で押しながら、ネジコーナーをウロウロしていた。

 

本当は「ネジザウルス」という、つぶれたネジ頭を掴んで回すことのできるペンチが欲しかったが、それは2000円前後するので、とりあえず「ネジすべり止め液」を買った。これは摩擦増強剤で、とがった粒子とやらがいかれたネジ頭を満たすことで、ドライバーとの摩擦をアップさせ、再び回せるようになるという優れものらしい。300円ちょっとだった。

 

結局、「ネジすべり止め液」を垂らしても、ネジは回らなかった。家に帰りすぐにアマゾンで「ネジザウルス」を買った。明日届く。よく考えると、「ネジすべり止め液」もハナからアマゾンで買えばよかったのだった。

 

 

ホームセンターでは猫じゃらしも買った。彼が気に入ってた猫じゃらしがいつからか見当たらなくなったので、新しいのが必要だった。

 

家に帰りさっそくじゃらしてみると、猫はえらく気に入ってくれた。頭上で振ると後ろ足で立ち上がって飛び跳ねる。今まで見たことのない躍動だ。前足の爪を立て、歯をむき出しにして、食らいついてくる。ものすごい勢いで捕らえるもんだから、僕は思わず猫じゃらしから手をはなしてしまう。じゃらしをくわえた猫は、家中をのそのそと歩き回る、唸りながらだ。完全に野生を目覚めさせてしまった。持ち手のプラスチック部分が、フローリングやオイルヒーターに当たって、カツカツ、カンカン音を立てる。そんな風にして興奮している猫を見て僕はひとりニヤニヤしてしまった。猫が、俺の買い与えたおもちゃで、遊んでくれてる……それが嬉しくてしょうがないのだ。初めての感情。

ウーウーうなっている猫を後ろから抱き上げると案外おとなしく腕の中に収まるのもまたかわいい。さっきまでの野生はすぐにひっこんでしまうんだな。

早く妻にも見てほしくて、仕事帰りの電車に乗る彼女に、猫じゃらしをくわえて走る猫の写真を送った。