ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

冬、この町の風が強い。

10月から東京から少し離れたところに住みはじめている。

「どこ?神奈川だっけ」と聞かれれば「◯◯の隣の駅」と説明するのが常で、たぶんこれはこの町「あるある」のひとつだと思う。

 

あるある、でいえば、この町はとても風が強い。夏にはじめて来たとき、砂浜から一直線に伸びる住宅街の道を吹き抜けていく風が心地よくてとても気にいった。海風にそそのかされて、ここに住みたいと思った。

しかし、冬の風は厳しい。ベランダで物干し竿にかけた洗濯物は風に煽られアパート前の駐車場に落ちる。帰り道、風が強すぎて立ち止まってしまう。木造アパートは風の強い日揺れる。転居から間もないころ、台風が来た。眠っているあいだに家が吹き飛んでしまうのではないかと思った。台風が怖いと思ったのは初めてだった。なかなか寝つけなかった。

 

沖縄に住んでいた幼いころ、停滞した台風が一日中猛威を振るうことがあったが、鉄筋コンクリート造の一軒家のなかに恐怖はなく、退屈があった。半日くらい停電してしまうと、子供のころの僕には、やることがなかった。本を読むような子供じゃなかった。親としりとりをしたり、台風前夜に買いこんだお菓子を食べてやり過ごしていた。

 

あたらしい町に住んだら毎日のように海を眺めてやろう、と思っていたんだが、寒いし、家からやや遠いので無理でした。こんなにも夏が恋しい冬は生まれて初めてだ。

いちど、眠れない夜中にひとり海沿いの大通りを歩いたことがあったが、とても怖かった。海は真っ黒で、ざばんざばんと打ち寄せる波の音と吹きつける風は皮膚をかたくなにする。道路を走り抜けた大型バイクのエンジン音が耳をつんざいたとき、僕はすくみあがってしまい、「怖いよ〜〜〜」となかば叫びながら駆け出してしまった。がたがた震えながら飲んだ缶コーヒーは灰皿にたまった水のような味だった。

 

この町はきっと、生きることの厳しさみたいなものをこれから2年近くかけて僕に教えてくれるんだと思う。僕は妻とふたり、身を寄せ合って、この町で生きていく。僕はこれまで社会や自然の怖さをまったく知らずに生きてきた純粋培養のあまちゃんだった。ひとりだったら無理だったが、幸いふたりなので、この町の厳しさもなんとかおもしろがれている。

人生は、この町の夜の海のように真っ暗で不穏に波立っている。しかし、冬を越してしまえば、あたたかい春がきて、やがて気持ちのいい夏も訪れると僕は知っている。その日を心待ちにしながら、働きつつ、部屋でネットフリックスでも見ながら冬をやり過ごす。

 

 

働きつつ、といえば、昨日発売の「週刊SPA!」特集「孤独の快楽」でほそいあやさん「せんべろで絶品メシを食う」のコーナーを担当しました。 

ライターとして、はじめて誌面に名前の載る仕事ができた。限られた字数とレイアウトのなかに、貴重な情報を詰めこみつつ、読める文章を書くのはとても難しかったけど、編集の方に辛抱強く面倒を見てもらい、なんとか形にできたのでよかった。

 

しかし、仕事がない。もっと働かせてほしい。働きつつ、と言いながら、そんなに働けていない。僕は結婚したので、去年までのようにニートに甘んじてられないのだ。ネットフリックス解約したくないので、仕事がしたい。悔しいけど、働きたい。