ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

ローソンで請求書をプリントアウトする。請求書に捺印するためイートインスペースに座った。インクが乾くまで、窓の外を眺めた。

みっちりと暑い大気の中を人々が行く。腰が直角に曲がったおじいさんが杖をついている。俺は彼を自宅のベランダから何度も見ているので知っている。彼は近所の銭湯に毎日のように通っていて、一番風呂を召し上がっているらしい。15時に開く銭湯にいの一番にのそのそと入り、1時間半くらいで出てくる。商店街で彼とすれ違ったり、彼を追い越したりもする。彼に家族はあるんだろうか、彼が笑うことはあるんだろうか。いつも無表情で少しだけ辛そうな顔をしている。辛さが顔にはりついているような……。

 

おじいさんが見えなくなると、俺は請求書を折りたたみ、封筒に入れた。

 

立ちあがるのがなんとなく億劫で、ぼうっとしてみる。散歩する、と言って部屋を出てきたが、この暑さのなか散歩するのはあんまり楽しくなさそうだ。隣駅のゲームセンターでサッカーゲームをしようと思い立つ。

ベビーカーに乗った幼女と、ガラス越しに目があった。椅子に腰掛けている猫背な俺の視線と、彼女の視線はまっすぐにぶつかった。互いにじっと見る。どちらも笑いはしない。ただベビーカーが転がるのに合わせて、彼女は首を左斜め後ろに傾けていき、俺の首も反時計周りに動いていく。

均衡を破ったのは幼女の方で、彼女は小さな手のひらを振った。表情は変わらずこわばったまま。ただ開かれた左手をぶらんぶらんさせていた。ベビーカーを押す母親は気づいていない。俺も彼女に手を振った。

 

立ち上がる。請求書を郵送したらゲームセンターに行こう。この手は請求書に捺印をし、封筒を手渡し、コントローラーを持つ。おじいさんの手は杖を握る。幼女の手は開いている。彼女は何を掴むんだろうか。