ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

面通し

こないだ恋人の妹家族が住む家にお邪魔した。恋人の両親という最終関門より前に、妹の審査を通る必要があったからだ。

 

東京に来てから付き合う友人はみな上京組だったので、東京に住んで7年目だが東京の一軒家に行ったのは今回が2軒目だった。ちなみに1軒目は恋人の友だち夫婦の家。

 

俺は最近ようやく小銭を稼ぎはじめたばかりで、まだ親に家賃を払ってもらってる身なので、姉を大事に思っている妹に「面通し」するのはなかなかに緊張した。これまでも今もこれからも恋人に悪いことをするつもりはないのに、「面通し」という気持ちになった。

 

行きの電車は1時間くらいの乗車。目的地が近づくにつれてナーバスになる。

ある駅で、中国人家族が俺たちの前の席に並んで腰かけた。夫婦と息子2人、娘1人の5人家族。いちばん年下の弟が両親に甘えきっていて、お行儀のいいお兄ちゃんと前髪の揃ったかわいい妹はなんだかちょっとだけ寂しそうだった。

 

妹に向かって変な顔をしてあげると、彼女は手に持ったうちわで恥ずかしそうに顔を隠す。しかし彼女は、うちわの紙が貼られてない柵の間から俺の顔を覗いている。電車が目的地に着くまで俺はずっとおどけた顔をして彼女を笑わせることに終始した。恋人といっしょに彼女のことをかわいいね、と言っている間は緊張がほぐれた。

 

駅に着くと恋人の妹が車で迎えに来てくれていて、あいさつもそうそうに俺は後部座席に乗り込む。前の方で姉妹が地元の失われた景色についてアレコレ話している。

 

家に着く。前日に買った2人の男児へのお土産と、俺の家の近所で買ったケーキを手渡す。

幸いなことに俺たちのお土産を上の男の子が気に入ってくれた(下の男の子は生まれたばかりなので気に入るとかはあんまりない)。それは積み上げる式のジェンガみたいなパズルのおもちゃだったが、オリジナルの組み上げ方で楽しんでいてとても嬉しかった。

彼はとても陽気で、パズルに夢中になっててもテレビから自分の知っている歌が流れてきたら手を止めて画面に釘付けになりいっしょに歌い出す。ケーキはあんまり好きじゃなくて、そんなこともあろうかと買っておいたケーキ屋のゼリーは「ホンモノじゃないから要らなーい」と言う。彼にとってのホンモノは彼が知ってる唯一のゼリーだけっぽい。カブトムシを飼ってるけどカブトムシを触れない。なんだか理屈抜きであらゆるものが彼の中で成立しているさまがとても潔くてかっこよかった。俺はすっかりこの男の子、未来の甥っ子に惚れ惚れしてしまった。いっしょにパズルで遊ぶのはとても楽しかった。

 

恋人の義理の弟はスポーツマンらしく引き締まった体で俺とは正反対だったし、恋人の妹はさっぱりしたいいお母さんで妻で妹だった。

 

 

緊張がほどけてその夜は飲みすぎた。俺はひたすらにホンモノのゼリーを愛する、カブトムシを触れない男の子に憧れてしまって自宅で彼のまねごとをしてしまった。

 

 

後日、恋人の妹から恋人に「子供好きに悪い人はいないです。とても感じのいい男の子で、お姉ちゃんのことを大切にしているのがよく伝わったので、私は応援します!  お父さんお母さんに紹介する時わたしもいっしょに行くね」とのLINEが届いた。俺は「恋人のことが好きなんです!  大切にしてます!」みたいなアピールをしたつもりがないので、そんなことをしなくてもその想いが伝わってることが嬉しかったし、子供にしたたか感心して遊んでもらってただけなので、なんだかすべてが結果オーライで大変よかった。