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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

散歩者

そうか、ここは“ひっそり”なのか。

 

夜中、バドワイザー片手にいつもの大通りを歩き、すぐに飲み干してしまったので、コンビニに入る(ハイネケンってかすかに野菜ジュースの味がしないか?  バドワイザー、薄くてうまい)。缶コーヒーとタバコを買ってしまう。洗車を待つ10台のタクシー、ボンネットにもたれてタバコを吸うおっさんたちがかっこよかったのだ。

最近気に入ってる花壇のそばの段になったスペース、そこに座り、大通りを見ながら1本吸う。強い、頭がくらくらする。もう吸わないので、残りはそこに置いた。

座っていると、隣の消防署からかすかにスピーカーを通した人の声がする。もしかして、と思い近づいてみると、何人かの男がのそのそと消防車、救急車の周りに集まっている。

俺は少し離れたところのガードレールに腰掛けてその様子を見ていた。

車に乗らないのが2人いた。1人はシャッターを開けている。もう1人は誘導棒を持って歩道に出てくる。誘導棒は点滅する。点灯しつづけるよりも、着いたり消えたりする方が灯りは目立つ。

 

ようやく消防車と救急車の赤色灯がガレージを照らし出した。誘導棒を持った男が、新聞配達の男を制止する。サイレンが鳴り始める。街中で、家の中で、突然遠くから聞こえてくるサイレンはあんなにもやかましく、心をざわつかせるのに、鳴り始めのサイレンはすごく穏やかに聞こえた。

 

緩慢に車道に出た2台は、のろのろと交差点を通過し、遠くに行く。残された男たちはシャッターを片付け始めたので、僕は家に戻ることにした。救急車と消防車の出動は僕が思っていたよりもずっととろかった。通報に緊急性がなかったからかもしれない。ボヤがあったけど落ち着いたとか、死人がいたとか、なんかわからないが、その程度の内容だったからかもしれない。

 

みたびコンビニに入り、井村屋のあずきバーを買って食べながら歩いた。井村屋のあずきバーが好きな暗殺者の話って絶対にあると思った。飯の炊ける匂いに興奮する殺し屋だっているんだから。俺がこの日井村屋のあずきバーを選んだのは、次のカンブリア宮殿井村屋グループ会長が出るとCMで見たからだった。こういうところだけ、きちんと踊らされてる。

 

夜道を散歩するだけで、1000円近く使ってしまったのは、さっきATMで確認したら、預金残高がひとりでに増えていたからだ。仕送りが入ったため気が大きくなってしまった。色の落ちた紺のパーカーに紺の半ズボンを履いてボサボサの頭で「今回も仕送りありますように!」と祈りながら残高確認をする自分の後ろ姿を、この夜俺は見たような気がした。