ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

実家②

実家に帰ってきた。帰ってきてすぐ元自室の掃除、窓拭き、犬小屋周辺の掃き掃除をした。最初は自分の寝る場所を確保するための掃除だったけど、窓拭きあたりから意識が変わってきた。

これまで当たり前に綺麗だった実家は、母が死んでからあっというまに汚くなった。窓は、母が一生懸命磨いていたからぴかぴか透き通っていたんだと、夏の潮風、秋の台風、冬の涼風でべたべた汚れたそれを拭きながらはじめて実感する。

 

掃除がひと段落したから、キョーダイといっしょに近所のスーパーまで歩いてった。近所といっても1キロ以上ある。真っ暗の農道をふたりで歩き、国道を渡って明るい24時間営業のスーパーに入る。

食べそびれた年越しそばやカレーの材料を買う。キョーダイがクイックルワイパーや薬用石けん、消臭スプレーなんかの日用品をカゴに入れていく。

俺はキョーダイより年上だけど、ろくに働いてないし金がないから、キョーダイが祖父からもらったお年玉で全部支払ってもらう。「父さんに言って実家にいる間の食費もらおうよ」と俺が言うと、キョーダイは「おじいちゃんからもらったお金は早く使っちゃいたいからこれでいい」とこたえた。

 

1万円分の買物だった。店員が有料のレジ袋にどんどん詰め込んでくれたおかげで、2つの袋ははち切れんばかりだった。このスーパーにやってくる客はふつう車に乗ってくるからこんなむちゃくちゃな詰め方でも問題ないんだろうけど、俺たちは歩いてきている。もしレジ袋を手にぶら下げて歩いたら、農道の途中で袋の底は抜けてしまうか袋が伸びきって千切れてしまう。だから俺とキョーダイは膨らんだ白いレジ袋をひとつずつ胸に抱えて、来た道を帰った。

したたか重い。汗が噴き出す。縮んだ二の腕の筋肉が痛い。暑い。俺は何度か立ち止まってしゃがむ。キョーダイは「立ち止まったらもう進めなくなる」と笑いながら、ゆったりゆったり歩きつづける。畑に囲まれた暗い一本道のはるか向こうに赤く点滅する信号機が見える。そいつを目標に進む。

左手の丘の上から、空に向かって白色の細い光が伸びている。なんの明かりだろう、UFOかな、UFOだったらいいな、イヤだよ殺されるよ、なんて話しながら家を目指す。

 

俺はペーパードライバーだから近所のスーパーまでも運転できない。お金がないからタクシー乗ろうよなんて気軽に言えない。貧弱な体だから筋肉はすぐに悲鳴をあげる。下のキョーダイの前で情けなかったが、いまさら取り繕ってもしかたない。これがいまの俺だ。暗い農道でヤケになって奇声をあげながら重たい買い物袋を胸に抱えて歩くのがいまの俺。周りに建物がないから、声は反響することなく吹き抜けていく。

「無になる練習してるから話しかけないで」と言いながら重い荷物に顔を少し歪ませてぺたぺた歩くキョーダイがかわいらしくて、申し訳なかった。あともう少しで家に着く。

 

ようやく家に着く。門扉を蹴って玄関へ急ぐ。家に入ると真っ先に洗面所へ行き、体重計に買い物袋を乗せた。俺が持っていたのは11キロ、キョーダイが持っていたのは6キロだった。それらをダイニングに持って行ったら、居室から出てきた寝巻き姿で寝癖もそのままの父が、俺たちの苦労も知らずレジ袋に手を突っ込んで惣菜をひっつかみぱくぱく食べはじめた。

 

父の苦労があったおかげで俺がだらだら生きていられたという事実を、帰省した俺はさまざまな形で突きつけられている。

これからは2月に1度くらいは帰省しようと思った。

 

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