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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

エドワード・ヤン『タイペイ・ストーリー』(1985年)雑感 〈台湾=親日〉?

ちょっと前に東京フィルメックスで『タイペイ・ストーリー』見た。主演のホウ・シャオシェンからビデオメッセージが届いていますのでそちらからご覧ください、って言ったかと思えば、そのありがたいメッセージが流れる前のスクリーンには、5分間、さまざまなCMが映った。
北野武の出るCM(DMM、ソニー生命カップヌードル、ワンダ)が延々流れて辟易としていたら、オフィス北野が協賛?しているとのこと。
金を払って座席確保してまで映画館でCMを見つづける観客たちの光景は滑稽だと常々思っているけれど、映画祭でまで見せられるとは思わなかった。
とはいえ、発見もあった。それは、ナレーションが皆無のエールフランスのCMがかっこよかったことだ。日本のCMは言葉が多すぎるのかもしれない。言葉なしにイメージだけで訴えかけられるエールフランスのCMはグローバルに強いように思った。

 

『タイペイ・ストーリー』は1985年に公開された映画で、経済成長著しい台湾を舞台にした幼なじみの男と女の話だ。少年野球(ベースボール)で世界一に輝いた過去の栄光にとらわれる男と、会社をリストラされアメリカに希望を見る女の、幼なじみカップルの寄り添えなさが、色鮮やかなネオンによって台湾の夜闇のなかに浮き彫りとなる。

 

当時の台湾は日本企業が掲げるネオン看板に満たされていて(いまの台湾がどうなのか俺にはわからない)、だから原宿や渋谷に憧れている女の妹は、東京で元カノ(だっけ?)と浮気してきた男が録画して持ってきたプロ野球のビデオテープを勝手に再生し、試合は早送りしてCMばかり見ている。
男の元カノは「コバヤシ」と結婚している。男が入りびたるのはカラオケのある酒場だ。
その一方、男と別れてしまった女はアメリカのポップソングが流れるディスコに行く。暗くなったディスコを照らすいくつかのジッポの火は危なげなく揺れている。

 

電飾に縁取られた夜の中華民国総統府前を、数台のバイクが疾走するシーンがめちゃくちゃ美しい。富士フィルムの緑のネオンをバックに浮き上がるふたりの人物の影や、ダイニングを上下半分ずつ光と闇に区切るライト、男がさまよう街の灯りも美しいけれど、いちばん印象に残ったのがこの台湾総統府だったことが、この映画のプライドなのかなと勝手に思う。しかしこの建物、上空からは日本の「日」の字に見えるように設計されているそう。


台湾は親日国だとか、日本からも数多くの旅行者が台湾を訪れているとかよく聞くけれど(そしてそれは事実でもあるのだろうけれど)、この映画を見ると、実は台湾人が日本に対してもっともっと複雑で繊細な気持ちを抱いているのではないか、と思えてくる。
台湾の闇を照らす日本よりも、その列島を越え、はるか海の彼方に堂々と浮かぶ大陸の方が、現実的な女にとっては魅力的だったではないか。
日本に愛人を持ち、過去にとらわれている男はグズだったのではないか。


けっきょく男は死に、女は台湾で生きることに決める。


原宿や渋谷に憧れる女の妹が、日本のテレビCMを真剣に見つめる姿は、なんだか滑稽で、そんな映画を見る前に延々広告を見せられた観客はもっと滑稽だったし、エールフランスの広告かっけーと思った俺はみっともなかったのかもしれない。

 


何はともあれ『タイペイ・ストーリー』直接的にも間接的にも光と闇がめちゃくちゃ美しい映画なので、来年デジタル・リマスター版が劇場公開される際にはぜひとも見てほしい作品です。