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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

「きみが好きだという、それだけで僕は嬉しいのさ」 『光の光の光の愛の光の』感想文

真っ白の存在たちが全力で恋愛をする。恋愛以外には何もしない。恋する相手のためだけに言動があって、恋愛に関係のないすべては蛇足……。



200歳の友人がしたためた「恋文」の入った赤い便箋を、彼の代わりに届けにきた男は、宛先とはべつの女に出会う。その女にも恋人のできる予感があった。転んだ男と見下ろす女の視線が一直線につながる、運命の恋は、偶然と思い込みからはじまった。
「あなたに恋した瞬間、世界はまるごと光ってくれた。比喩なんかじゃなくて、ホントに輝いたんだ」。


封筒の中身は実はお金で、でも相手の女の子は、彼のことがまったく好きじゃないから受け取れないと言う。お金はほんの気持ちだから受け取って、と言われても、「気持ちなら受け取れない、純粋にお金として受け取るね」と返す。反語。好きならば愛だけ十分なのだ。お金なんて必要ない。


すべての恋が実るわけじゃない。
一直線につながる視線の外で、「なみだ、なみだ、なみだ」の女もいる。
女は別れてもなお想いを寄せ続けていた男と偶然再会する。しかも幸か不幸か、彼の目には彼女しか映らないようだ。にも関わらず男は、見えなくなったいまの恋人を取り戻すことに必死で、元カノとヨリを戻す気はサラサラない。恋人を取り戻そうと奮闘する元カレと再び付き合える可能性はほとんどないと知りながら、女は彼の努力に付き合い続ける。いつまでも彼が恋人と出会えなければいいのに、目的を達成しなければいいのに。


10年越しに恋人との再会を果たした元カレを、かなしく見送った女も実は熱い視線を受けているのだけれど、彼女がそれに気づくことはない。熱い視線の源は幽霊だから、彼の想いは生者のもとへは届かない。
恋を得られなかった女も実は、べつの恋の可能性に曝されている。その恋は、少なくとも彼女がこの世にいる限り現実にはなかったのかもしれないけれど、観客の目には、幽霊の一方的な、しかし押し付けることすら叶わないやさしさとして映っている。いま愛されていないように感じていて、波のような寂しさに身を浸しているひとも、きっと誰かに愛されているのだ、ただ今はその視線が結び合わないだけなのだ。だからずっと寂しい必要はない。


「きみが好きだという、それだけで僕は嬉しいのさ」という歌詞を思い出す。200歳の男がそんなようなことを言っていたからだ。
お金ではなくって想いのたけを綴った手紙を飛行機にして飛ばしていると、親友の幽霊はパイロットになってそれを天国まで届けてくれた。
たとえいつか好きという気持ちが消えてしまっても、好きだった瞬間瞬間の想いが消えるわけじゃない。好きの結晶が体のなかを満たしていて、それはとても嬉しいことだ。
でももちろん「きみに彼氏がいたら悲しい」。ときどき無性に寂しくなる。それでも恋は素敵だった。


ところどころ発光していた女はやがて光そのものになってしまった。その光を絶やさないために男はペダルを漕ぎ続ける。愛の光を絶やさないことだけに、命を燃やす。
天国では延々と紙飛行機が投げられては受け止められ、受け止められ損ねている。





モーニング娘。の「Mr.Moonlight ~愛のビッグバンド」が歌われるのに、「恋人なら24時間 Ah ピタッとピタッとくっつきたいな But それではLADY仕事にならん」という歌詞をほとんど無視するような恋愛しかない世界のなかで、サザンオールスターズいとしのエリー」が鳴り「言葉につまるようじゃ恋は終わりね」という言葉が桑田佳祐に歌われたとき、この歌詞がこの『光の~』のテーゼだったのだと思った。


マネーの虎」パロディーシーンで「虎」のひとりは、恋人に100万ドルの夜景を見せるために100万ドルを希望する男の言葉を遮って、「『本当に好き』なのはわかったから『本当』の部分を聞かせてくれ」と言う。
言葉を尽くして尽くして愛を語る、恋愛は偶然によって始動し、言葉による思い込みで深化していくから、「『のろけ』とは違う愛の感情」を言葉にしていくことで、さらに確かなものとなっていく。
マネーの虎」で無心するシーンからもわかるように、『光の~』のなかには労働が出てこない。みんな恋のことしか考えていないし、そのためにしか行動していない。
ただカフェ店員と、「照明」を設置した「黒いスタッフ」は、恋の渦に巻き込まれることがなかった。



板橋駿谷と望月綾乃がとても好きだったのだけれど、彼らは三浦直之主宰の「ロロ」に所属していると知って、納得。他の俳優とは『光の~』への馴染みぐあいが段違いだった。板橋駿谷が演じるちょっとイタくて可愛らしいキャラクターと、望月綾乃のたたずまいと声がなかったら、ふたりのストーリーはあまりにも悲痛すぎて引いてしまったと思う。


というわけでひさしぶりの観劇はめちゃくちゃエモい気持ちにしてくれました。
恋なあ~。

 

 

ひかり ひかり ひかり 君をつつめよ
ひかり ひかり ひかり 僕を置いてくなよ
いけるかな 君のいる場所へ
いけるかな 光の射す場所へ
銀杏BOYZ「光」