読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

外濠-神田川(御茶ノ水付近まで)

市ヶ谷駅近くから飯田橋辺りまでの外濠が好きだ。
電車は、外濠の東側を水面とさほど離れていない高さで走る。昼間の車窓からは、釣堀に糸を垂らす人々や水際のテラスが見え、夜になると、対岸の街明かりが水面に揺らめく。
対岸を歩いて、走る電車と外濠を眺めると、「かわいい」という言葉が口をつく。パノラマに見える車両の連なりと、その手前を流れる広すぎも狭すぎもしない川が、ミニチュアのように感じられるからかもしれない。


北へ向けて走った電車は飯田橋駅を過ぎると、水の流れに沿って東に進路を変える。
水は首都高速の下を走りやがて東と南に分岐する。この分岐を境に、東へ流れる水が神田川、南に落ちていく水が日本橋川と名づけられる。電車は神田川に沿って走り、水道橋駅御茶ノ水駅へ向かう。ちなみにどちらの川もけっきょく隅田川に注ぎ込む。


水道橋駅は、東京ドームの最寄りだ。
小さいころ、毎週日曜の昼過ぎ、父が録画してくれた子供番組群を見ていると、東京ドームのCMが流れた。イルミネーションに照らされた噴水、青と緑の光を持つ東京ドーム。テレビに映るそんな風景が、おれに、東京をはじめて認識させたように思う。
いまは、この外濠と神田川が、東京という言葉で思い出す景色のひとつになっている。


水道橋駅を過ぎると、川は谷底を流れ、線路はいつのまにかその渓流から離れて、空に近づいている。
この辺りは本郷台地というそうで、川は、いまから400年ほどまえにこの大地の真中を削って造られた人工の流れだ。とはいっても、400年経過すると、人工水路も景色に馴染むらしい。


おれはこの台地の真ん中すぎに位置する御茶ノ水橋から眺める、はるか下を流れる谷川と、そこよりいくらか高くに設置された御茶ノ水駅ホーム、そしてその奥に架かる聖橋の織りなす風景がとても好きだ。
駅のホームから斜め上へと伸びる階段は、向こう側から同じく伸びてきた階段とぶつかって三角形を成し、その頂点は遠近のなかで聖橋の延長線と重なりあう。聖橋の方へとつづくホーム先と、アーチ型をした聖橋の右端もまた重なりあう。駅と橋の作り出す美しい構図の20メートル下を川は流れ、ホームには電車を待つ人降りる人々がいる。目的地のある人たちと、行く末の決まっている穏やかな水流を、鉄橋の欄干に頬杖ついてぼんやり見ていると、なぜだか安らぐ。
と言ったものの、現在神田川に面する線路下の耐震補強工事が行われており、川の上には無残な仮設の桟橋が建っているため、景観はあまりよくない。おれははじめてお茶の水橋に立ったのはこの工事が始まった後だから、さっき説明した安らぎの景色は、おれの想像のなかにある。

 

こうやっておれの東京のイメージは、ブラウン管で見た東京ドームから、自分の目で見た外濠(市ヶ谷~飯田橋)~神田川御茶ノ水付近まで)へとスライドしていた。