ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

仙人と閻魔の喧嘩

小学生6年生のころ、学芸会の出し物で行われた演劇で、僕は閻魔大王という大役を任せてもらった。ちゃんとセリフと動作を覚え、それなりに役に入り込んで(当時の僕は閻魔大王をどういうキャラクターだと解釈していたのだろう、覚えていない)、建て替えられたばかりの体育館の舞台で2度、閻魔大王を演じた。舞台のすぐ前に座っていた低学年の子供の何人かは、閻魔大王を怖がって涙を流していて、その光景を見ながら演じるのは本当に気持ちよかったし、先生にもとてもよく褒めてもらえたし、閻魔大王を演じたことは、とても良い思い出になっている。


1度目の上演は全校生徒の前で行われるリハーサル的なもので、2度目は父兄をはじめとした外部の人が見に来る本番だったのだけれど、本番の日に、ハプニングが起こる。
どんな理由でそうなったのかは覚えていないが、僕は、仙人役の友人と喧嘩してしまった。本番中に舞台裏で口論になってしまった。



地域の野球クラブに入っていて運動神経抜群だった彼は、毎日毎日、放課後になると僕とバスケやサッカーをした。僕も彼も友人は少なくなかったのに、放課後はふたりで遊ぶことが多かった。あの時間はいったいなんだったのだろう。
1時間だか2時間だかその日によって違うけど、遊び疲れた僕らは、歩いて帰ったり、丘のふもとにある学校近くの停留所からバスに乗り、港にほど近い停留所でバスを降りたりした。彼はバス券(回数券)をたくさん持っていて、バスに乗った日はいつも、僕にその券をくれた。子供ながらに僕は悪いなあと思っていて、きょうは俺歩いて帰るよ、と何回か言ってみたのだけれど、それでも彼は、いいからいいからと言って80円のバス券をくれた。やがて当たり前のようにその券を受け取るようになる。



そんな友だちと僕は喧嘩した。まったく理由は覚えていないのだけれど、お互いに殴りかかろうとしていて、それを周りの友人たちが止めてくれた。
彼は僕に「オマエ、頭が良いからって、おもしろいからって調子乗るなよ!」と叫び、僕は僕で「オマエこそ運動できてモテるからって威張るんじゃねえよ!」と言い返す。
そんな僕らのやり取りに対して誰からともなく「オマエらなんでお互いに褒めあってんの……」と失笑が漏れ、僕らはまったく気が削がれ、やがて出番が来た彼は仙人をやり遂げ、入れ替わりで僕も閻魔大王として大声を張り上げた。


それから1ヶ月後、僕らは同じ体育委員になって仲良く体育館の掃除をする。ある日、新築の体育館の壁を、走り高跳び用の分厚いマットを載せた台車で突き破って、体育委員全員で12万円弁償した。ひとり1万円の負担だった。


彼とは同じ中学に入ったけどほとんど話さなくなる。最後に会ったのは高校3年生のころ。港にほど近いバス停から出発し、県庁所在地まで運んでくれるバスの中だった。彼は彼の進んだ高校野球部の面々と遊びに行くところで、僕は予備校に行くためにバスに乗っていた。
冗談で彼に、バス券くれよ、と言ったら彼は、ふだんは自転車乗ってる、と笑った。



彼のことはいまのいままで忘れていて、だからフェイスブックのアカウントを探したこともないのだけれど、今の彼にはあまり興味がない。
彼は僕の存在をまったく忘れているという確信もある。だからといって彼を責めることはできない。僕だってつい1時間前まで彼のことを7年間忘れていたのだから。