ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

酔っぱらいとドイツ人とマック赤坂と

昨日誘われるがままに行った飲み会には見知らぬドイツ人旅行者がいた。僕はドイツ語はもちろん英語もまったく喋れない日本語に甘えきった怠惰な人間なので、飲み会中に彼と話すときは友人に通訳してもらった。


飲み会に参加していた女性陣は一次会で姿を消し、ドイツ人を含む残された男3人に加えて、居酒屋で知り合った別テーブルの体操部OBたちと、河岸を変えて飲み直すことになった。しかしスーツを着た男が連れてってくれたお店は、男女が出会うためだけにあるような騒がしいバーで、満員電車のように混雑した店の中で僕らはみんな散り散りになる。


このブログタイトルは完全な名前負けで、僕はどの女の子にも「ひとつ恋でもしてみようか」なんて声をかけることができず、ひとりぼーっと生ビールを飲んでいたのだけれど、そのときに偶然目があったのがヒゲのたくましい坊主頭の大柄な白人で、つまり飲み会にいたドイツ人だった。彼はひとなつこい笑顔でそばに来てニートの僕にビールをおごってくれた。僕は最初「あっちゃー捕まってしまった」と思ったのだけれど、完全に酔っぱらってたこともあって、彼のくれたビールを飲みながら通訳なしでこの男と話してみるか、という蛮勇がみなぎっていった。


居酒屋にいるとき僕がかつて大学でドイツの原発運動について少し勉強をしていたという話を彼にしてあったことを思い出して、僕は彼にいろいろ聞いてみることにした。英語で自分の話をするのは難しいけど、「Do you ホニャララ?」で質問攻めにすることくらいなら僕にもできる。

酔っぱらってたから会話のほとんどは覚えていないんだけれど、「未だに原発があっていつ地震が来るかもわからない日本を旅行するのは恐くないですか?」みたいなことを1分くらいかけてなんとか聞いたら、彼はリュックサックから線量計を取り出した。そこには確かにmSvという文字が表示されていて、その画面に表示されているデジタルの数字は絶えず揺れた。彼はそれをビールに近づけたり、僕の胸に当てたりして、「OK, OK」と笑顔で言う。

「ドイツではすぐに脱原発が決まり、日本は未だに原発を持っている。ドイツが原発を手放した理由ってなんですか?」と聞いたら彼は、「Fukushima, Fukushima」と真剣な顔で言う。つづけて彼は「日本とドイツはよく似ている、私と君は友人だ、日本はすばらしい」とたぶん言っていて、たぶん僕を勇気づけてた(共通言語のない人との会話はずっと「たぶん」で解釈するしかないんだけど、それは実は共通言語があってもそうなのかもしれない)。
僕は脱原発派でも原発維持派でもない怠惰な日本人なんだけど、それでも彼と話していたら自分が情けないやら彼の優しさやらで泣いてしまったし、俺は脱原発派だー!というような気持ちになった。繰り返して言うけれど、僕はいまなお脱原発派でも維持派でもない。ただただエモさに涙腺を叩かれただけだ。でも、あれは確かにいい時間だった。


互いの友情に熱くなって握手したり肩を組んだりしていたら彼が「渋谷のクラブに行きたい」と言うので、山手線に乗って渋谷に向かった。切符を買うときに彼にトゥーハンドレッドイェン!と言ったとき、「俺いま英語話してるなあ」と初めて実感した覚えがある。


渋谷に着いて改札を出るとスクランブル交差点の前の広場には最近やたらとそこに立っているマック赤坂がいて、全身ピンクで両手にライトをもっているマックさんにドイツ人は興味を示した。僕は酔っぱらった勢いで、帰り支度をしているマックさんに話しかけてみた。「彼はドイツから来ている旅行者でさっきまで僕らはいっしょに脱原発について話していてマックさんはなんで最近いつもここに立っているんですかああ参議院選ですか僕応援してます」というようなことを一通りまくしたてた。しかし一日中どっかしらでパフォーマンスをしているマックさんは疲れていたのかスマイルはまったくなく、それどころか僕らを見つめる目は冷たくて、恐かった。


さっきツイッターで作家の岡映里さんに「マックさんはあなたに対して冷たいんじゃなくて、人が怖いんじゃない? 攻撃的防御の人だと思う」とおっしゃっていただいて納得した。
そういえばドキュメンタリー映画『立候補』に映っていたマックさんには、スマイルというよりどこか頑なな印象を受けた記憶がある。泡沫候補としての姿勢を崩すこともなく、ずっとスマイルセラピーをする彼の目は、どこか笑っていないようにも感じられた。
とはいえ、初めて彼を目の前にした酩酊状態の僕は映画の記憶を引き出すことができず、有権者に対して候補者が当然持つはずのサービス精神のようなものがマック赤坂から感じ取れなくて、恐くなって、喧嘩腰になってしまった。岡さんが言っていたマックさんの攻撃的防御に対して、僕も攻撃的防御をしてしまった。喧嘩腰になったときに彼に対してどんな言葉を放ったのかは覚えていないし、僕が熱くなっているとき横にいたドイツ人がどんな顔をしていたのかもわからない。マックさんの横にいる秘書の方の「マックさんは本気なんですよ!」という言葉とその怒ったような表情だけを鮮明に覚えている。



その後、気づいたら僕はひとりで道玄坂を上がっていて、ドイツ人とははぐれてしまっていて、けっきょく自宅まで歩くのもしんどくてニートのくせにタクシーに乗ってしまった。

 


たぶん、マックさんはスマイルを意識しないと笑えない人なのかもしれない。
僕は『立候補』を見たのに岡さんに言われるまでまったく忘れていたんだけど、劇中マック赤坂は「鬼殺し」を飲みながら選挙活動をしていた。
ウィキペディアによれば「マック赤坂は人生を『究極的に言えば、人間、最後はひとりで生きて、ひとりで死ぬ。所詮は自分ひとりなんだ。人生は孤独だ』と捉えている」らしい。