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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

うがい

むかし付き合ってた女はよく「消えたい」と言っていて、それは多分、俺がつぶやく「死にたい」と同じだった。俺よりも彼女の方が言葉を大切にできる人だったのかもしれない。俺もやっぱり死にたくはない、ただ、消えてしまいたくなることはよくある。彼女の方が厳密だったんだろう。


死にたい、とつぶやいたその口を俺は、蛇口の下に持っていって、水を入れてうがいする。やっぱり死にたくはないのだ。死にたいやつは、手洗いうがいなんかしないだろう。
いや、死は苦しみからの逃避にもなりうるので、だから、死にたいやつも、手洗いうがいはするのかもしれない。きょう飛び降りた彼は、昨夜、手洗いうがいをしたのかもしれない。臭ってきたタオルを交換したのかもしれない。


風邪をひいたり、やけに頭が痛かったり、金玉が痛くなったりすると、このまま肺炎になって脳梗塞になって精巣がんになって、俺は死んでしまうんじゃないかと不安でしかたなくなることがある。身体の調子が悪いときは生にしがみつきたくなる。その一方で、身体にさしたる不安もないときは「死にたい」とつぶやいてしまう。
俺の「死にたい」はぜんぜんリアルじゃない。



きのうは、いろんな大人のいろんな体験を聞き、きょうは、同年代の男ふたりの熱を聞いた。
俺は何も聞かせられなかった。


いつかこの喉で何かを話せる日がくるかもしれないので、うがいはしっかりしておきたい。