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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

デタッチオアアタッチ

「日本語わかんないなら日本に来んじゃねえよバーカ」
牛丼屋。隣に座る男が、中国人の女性店員に言う。薄汚い身なりをしたその男はろれつが回っていない。


俺より後に店に入ってきたその男はすでに酔っぱらっていて、キムチと瓶ビールを注文し、瓶を空にすると「ビビンバ、あと、もう1本」とおぼつかない口調で頼んだ。そうして出てきたのが瓶ビール一本だけだったから、男は、冒頭のセリフをのたまったのだ。


「ビビンバ」と「瓶ビール」は、ろれつの回っていない口から発されると、聞き間違えても無理はなく、だから中国人店員が注文を取り間違えるのも、さもありなんだった。彼女は彼のことばを「瓶ビールあと1本」と聞いた。日本語が聞き取れないからではなく、日本語を発している彼がハッキリと話せないから起こったミスでしかないように、俺は思った。

男と店員のやり取りをすぐ隣で聞きながら俺は、笑いをこらえるので必死だった。しかし、いまこれを書き出しながら改めて思ったのは、俺が「あんたの注文の仕方が悪いんだよ」と言って、店員に助け舟を出すこともできたということ。しかし、俺は彼らのやり取りに対して、その時点ではまったく関係を持たなかったし、持とうともしなかった。
そういう自分のスタンスに気づいたのは、あれから何日も経ち、こうやってその出来事を書いている「いま」だ。まあ、男が店員に掴みかかったわけじゃないし、やっぱり俺には関係のない話だったのかもしれない。


このやり取りがやけに印象に残ったのは、男のヘイトな物言いが自分にとって初めてリアルに接した「ヘイト」だったから、というだけではなく、男が、自分が日本に長いこと住んでいるというただそれだけの理由で、自分の日本語が、日本語を解する人になら当然理解されるものだと思っているようだったからだ。要は、この男傲慢だなあ、と思ったということだ。
俺が就活からフェードアウトしたのは、面接で自分の言葉が相手に全然通じていないと思ったことが一因だから、あの男の、同じ言葉を話せれば意思疎通が当然できると思っているらしい傲慢さがおかしかったのだ。



話を戻すと、やっぱりあのとき俺は傍観者として、件のやり取りを見ていた。その時点では彼らのディスコミュニケーションは俺には関係のない話だった。でも俺があのとき一言発すれば(「あんたの注文の仕方が悪いんだよ」)、俺は男のヘイトな物言いに対して異議を唱え、あの問題に関係を持つことになったのだ。実際に俺はそんなことしようだなんてその時は思いもよらなかったし、そうすることができる、とたとえ気づいていたとしても、俺は口出ししなかっただろうが。それはなぜか、やっぱり俺には関係のない話だからだ。


とはいえ、男のヘイトによって中国からやってきた労働者は気分を害し、もしかしたら日本に対して悪い印象を持ったかもしれない。だから日本人である俺には、大いに関係のある事態だったかもしれない。
それでも、やっぱり、俺には関係のない話な気がする。
俺は、あらゆる問題について、どこからどこまでそれが自分に関係があるのかないのか、わからない。
自分の人生にだって、まともに関係できてないのだから……。

 

 

 




あなたはなぜそれについて語るんですか。あなたは、どれくらいどういう風に、その問題に関わりを持っているから、それについて語るんですか。