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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

母のおっぱい

母が倒れ、おれは帰郷した。もろもろが落ち着いて帰京するさい、一枚のDVDを実家から持ち帰った。赤ん坊のおれが映った映像。
何年か前、躁転中の父は業者に頼んで、ホームビデオをDVDに焼き直した。その中の一枚を、ひとり暮らしする部屋で見て、感傷に浸ってみようとおれは思ったのだ。しかし、新生児室で眠っている生まれたばかりのおれやら、いまのおれより2歳年上の母の腕に抱かれたおれ、ベビーベッドに横たわるおれ、つかまり立ちをはじめたおれなんかを見てもあんまり感傷には浸れなかった。ふーんって感じ。なんだか子育てごっこしてるみたいだとか思ってしまった。


しかし唯一こころがあったかくなったシーンがあった。それは両親が赤子を、つまりおれを病院からマンションに連れ帰ったときのもの。両親は父の母、まあおれから見れば、父方の祖母とともにマンションに帰ってた(ふつう母の母が連れ添いそうだけどそんなもんでもないんですかね?嫁入りした女は義理の母に気を遣いながら子育てするんですか?しんどそう……。不幸中の幸い、万が一おれが結婚して子供授かることがあっても、姑はいないので、おれに気のある女性はその点安心して求婚くれていいですよ)。
祖母はダイニングの方で何かしていた。オフで祖母のなにか言う声が入る。母の「お母さんありがとうございます」という声も聞こえる。その間、父は寝室に置いたベビーベッドのおれをビデオで映しながら「この子はどんな大人になるのかなあ」なんて白々しく言う。母は「あなたの子なんだから大物になるよ」なんて言ってる。鳥肌が立った。あとやっぱりちょっぴり申し訳なくなった。


心があったかくなったのはこの後で、父が母にカメラを向けると、母は洗濯物をたたんでいた。母は少し照れながら「私は(映さないで)いいよ」なんて言う。けど、そう言ったあとで、ダイニングにいる祖母を伺うような仕草を見せてから少しダボついたその白いTシャツをまくろうとした。母は「見たい?」と笑顔で言った。父は「やめとけ」と笑った。けっきょくそのDVDに母の乳房が映ることはなかった。

 

 

母のいる病室から帰ってきた父はあいかわらず憔悴していた。母が倒れてからの3日間、気が動転した彼のテンションは乱高下を繰り広げていて、おれや兄弟、親戚たちは彼の気分に辟易とさせられていた。
父は笑顔をつくろうとしてつくって、おれにこっそりこう言った。「お母さんのおっぱい見てきたよ」。


驚いた。父の前にひとりで病室に入ったおれも母のおっぱいを見ていたから。いつぶりかに見た母のおっぱいは、相変わらずまっ平らで、乳首だけおっぱいらしかった。その話はもちろん父にはしなかった。へえ、って返事した。

 

男の子はけっきょく母親に似た女を好きになるのよ、なんてよく言うけど、おれは巨乳が好きです。巨乳のきれいなお姉さん、おれと結婚すると姑のいない結婚生活を満喫できるので、その点は安心してください。




勝新太郎は自分の母親を亡くしたときに「俺を産んでくれたところに顔を埋めてキスをしたよ」と記者会見かなんかで言ったらしい。そこまではしなかったけど、おっぱいは見ておきました、という報告。