ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

シャンプーの匂いしあわせ

「きょうはちょうど2ヶ月ぶりに美容院で髪を切ってもらったよ。予約の電話をかける10分前まで迷ってたんだけど、きょう切らないと明日は美容院休みだし、水曜からは野暮用があって自宅を少し空けるから、だから、きょうを逃したらおれの散髪は桜が咲く頃になっちまうかもしれない、と思い直して、予約したよ。


外はまとまった雨が降っていて、おれ雨の日に履けるような普通の靴を持ってないから結局たまーにランニングするときに履くだっさいシューズを履いて美容院に向かったんだ。雨の日に履けるような靴を持っていない、って言ったけど、実はおれ履ける靴を持ってないって言ってもいいんだよ本当は。1年くらい履いてるスエードの靴はかかとがすり減りすぎて中敷が地面に接してるって言ってもいいほどだし、だからもちろん雨の日には絶対履けないんだけど、さいきんはエスカレーターに乗ってるときとか階段を上がってるときには後ろの人に靴底見られてるんだろうなあって少し恥ずかしくなる。買わなきゃいけないとは思ってるんだけど、なかなかねぇ……。
あと、青いコンバースのスニーカーも持ってるんだけど、あれは本当に買ってから8年くらいになるんだ。これは靴底はマシなんだけど、両足とも小指のつけ根の外側が少し破れちゃってる。あともちろん色もあせてるし、とにかく青だからさ、いつでも履けるもんじゃないし、ダメなんだよなあ。これも雨の日はぜったいに履けない。こないだ雨の日に六本木から家まで歩いて帰ったんだけどさ、その日びっちょびちょになっちゃって、だから一念発起して久しぶりに洗ったんだよ、靴洗うなんて、高校生以来だよ。あの頃はさ、上履きとか運動靴とかスニーカーとか1週間に1回、少なくとも2週に1回は洗ってたんだよ? このおれがさ。信じらんないよね。


で、とにかくそのだっさいアディダスの白い底の厚い運動靴履いて美容院行ったんだ。あ、悪いけどこの話には笑えるオチがあるってわけじゃないよ。ただ美容院行ってすごいいい気持ちになったよーってだけ。いいじゃん、たまにはしあわせな話したってさ。


前回とおんなじ女の人に切ってもらったんだけどね、彼女、おれの好みと髪のクセを把握してくれてて、だから出来上がりには行く前から半ば満足してて。じっさいいい感じに切ってもらえた。ひっさしぶりに相性のいい美容師さんと出会えたよ。まったくこの町に越して4年になるってのにねー。とにかく前回で彼女とおれの相性…ってったってもちろん髪を切ってもらう上でのだよ? 他に何の相性があんだよ(笑)。
だからさ、いま話したいのは髪をうまく切ってもらえてよかったーって話じゃなくて、イヤでイヤでしょうがなかった美容院ノルマをとりあえず達成してホッとしたとかそういうことでもなくって、シャンプーが最高だったってこと。美容師さんにシャンプーしてもらうの最高だねほんと。いや、だからさ、またおれがいやらしい意味でシャンプー最高って言ってると思ってるでしょー信用ないなあ。美容師さんは別に歯科助手?さんみたいにおっぱい当てて安心させてくれるわけじゃなし、美容師さんのシャンプーなんてぜんぜんいやらしさないでしょ。さすがのおれでもそこまで多感じゃないっつーの。っていうか女性美容師がおっぱい当ててくるんだったら男性美容師はどこ当ててくんだろうね。あ、墓穴ほった。またしょーもない下ネタ言っちゃった。ねえ、黙ってないでツッコんでくれよ。
え? 歯科助手のおっぱい? ああ! いや、おれ歯医者行ったことないから! 実際におっぱい当ててもらったことはないよ!安心して!
ああ、ごめん、別に不安になったわけじゃない? いや言われなくたってわかるよ、キモかったな、弁解がまたキモいとか言わないで。


……話続けていい? シャンプーの何がいいかって話なんだけどさ、シャンプー。あれ家に帰ってから気づいたんだけど。洗濯機から洗い終わった洗濯物取り出して顔上げたときにさ、ふわっと女の子の香りがしたの。なんだなんだこの匂いは!?って思ったけど、おれの髪の毛からこの匂いしてたんだよねその香り、軽くショック受けたよおれは。女の子の髪の匂いがじぶんからしてさ、おれ、しあわせな気分になっちゃったんだよね。なんかむかし付き合ってた女がそばに駆け寄ってきたとき思い出してさしあわせんなっちゃったおれ。うん、ノスタルジーってやつだな、匂いってのはほんとに郷愁を誘うんだなあ。

いままではさ、美容院でシャンプーやってもらうなんてお金のムダだと思ってたからシャンプー断ってたの。でもきょうはカット代が割引されたし最近ちょっとだけ小銭稼いだからさ、だったらその浮いた分で試してみよっかなあって思って。
そもそもおれニートだから、出費は必要最低限に抑えたいわけよ、罪悪感はいちおうあるからさ。あるよーあるに決まってんじゃん。たとえばおれLINEスタンプはぜったい買わないからね。あれはちゃんと生きてる人だけが使用を許されるんだって思ってる。え、だったら酒飲むなよって? いや、さ、酒はさ、ダメな人が飲むもんだからいいのですよ。

 

とにかく! これからは美容院に行ったら髪洗ってもらおうと思ったよ。いや、自分でいい匂いのするシャンプー買ったら鼻が慣れちゃって女の子がそばにいるような気分味わえなくなっちゃうわけよ。これはお手軽妄想デートって感じだな。シャンプーの匂いが香った瞬間に目を閉じて、想像すんの、おまえが横にいることをさ」

 

 

 

 

 

 

「いろいろウソついて、すみませんでした」