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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

サクラコ、きみは水分ヘアパック、そしてぼくはきみを選べなかった

中学生くらいのころ、好きな女の子が5人いた。だれのことを本気で好きになったらいいのか悩んでたぼくは、夜な夜な浴室のタイルを使って彼女たちのことを競争させていた。どの娘がいちばん素敵なのか自分にとって大切なのか付き合ったら楽しそうなのか、さまざまな項目を設けて彼女たちをレースさせた。ユウコちゃんはシャンプーボトル、ノゾミさんはリンスのボトル、アイちゃんはボディーソープのボトル、ユウカちゃんはバスマジックリン、サクラコは水分ヘアパック。
全裸のぼくは彼女たちを浴室タイルの端っこに、横いっせんに並べて対岸の壁までレースさせた。顔、性格、相性、評判、そういう各項目で対決させポイントを与えていく、彼女たちはぼくのお眼鏡に叶うために毎夜競争させられていた。1ポイント得るごとに進んでいくボトルたち。競争の勝敗は、毎晩異なった。でも結局、サクラコが勝つことが多かった覚えがある。


サクラコとはキスするどころか手も繋いだことはないしそもそもぼくの好意を彼女に伝えることはなかった。ぼくが好意を伝えることのできなかった女の子たちは、いつも後んなって「あの頃のわたし、きみのこと好きだったんだよ」って言うんだ。サクラコも、電話の向こうでそう言った。ぼくが「じゃあ今付き合ってくれ」って言ったら「いまは好きじゃないのごめんね」って他の女の子たちとおんなじお決まりの文句。


サクラコが、教室の隅っこで友達たちとオススメのシャンプー情報を交換していた。「わたしは水分ヘアパック」って聞こえたから、部活帰りのぼくは、迎えに来てくれた母に言ってその日のうちに水分ヘアパックを買ってもらったのだった。まさか「サクラコが使ってるらしいからあのシャンプーが欲しい」なんて言えるはずもなく、あの日のぼくはなんと言って母に水分ヘアパックを買ってもらったのだろう。覚えてない。シャンプーにこだわりを見せたのはあれが最初で最後だった。


ねえ、今でも水分ヘアパック? って聞いたらサクラコは「え?なんのこと?」って言ったのだった。


水分ヘアパック、仙台貨物、EXILE夏目漱石、好きだった女の子たちのおかげで知ったものたち。

 

 




いやいや、こういうことを書きたかったんじゃなくて、あの頃からおれは何かを選びとるということを積極的にできなかった、っていう話がしたかったのだ。確かに、浴室タイルレースの勝率はサクラコが1位だったのだけれど、常に彼女が勝つとは限らず、ぼくの裸が捩れるとき、頭ん中に思い浮かんでいる女の子は、ユウコちゃんであり、ノゾミさんであり、アイちゃんであり、ユウカちゃんであり、そしてサクラコだったのだった。
誰をも何をも得られないのに、ひとり浴室で、誰をも何をも選べるような気になっていたあのころ、いまも続いてるね。