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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

きょうおまえ何人と喋った?

また当然のように1週間だれとも話していないわけですが、みなさんは今週誰とお話しましたか。楽しかったですか。


昔話します。
高校に入るとき、すべての高校はヤンキーがてっぺん取ってるもんだと思っていたぼくは、てっぺん取るつもりはなかったんですが、初日から「なめられたらあかん」と思い、見た目はともかく態度はめちゃくちゃツッパって登校しました。入学式後、クラスメイトと教室で初対面、なめられたらあかん、と思ったぼくは、明るく声をかけてきたお調子者を睨みつけ「なめてんの?」と一言放つ、すると、ぼくの半径1mが水を打ったように静まり返りその波紋は教室全体に届いてしまいました、入学初日からクラスを黙らせることに成功したぼくは一度も喋ったことはないけれど同じ中学からその高校に入った男に「おい、トイレ行こうぜ」と言って、その静寂を肩で切って歩き教室を出て行きました。べつに尿意を催していたわけでもないぼくはトイレに入るなり出身中学が同じだったその男の方を振り返って「本当にごめん!!」と謝りました。気づいていたのです「なめてんの」と口に出しながら、いや、彼はぜんぜんおれのことをなめていないし、むしろクラスを和やかにスタートさせるためにがんばっているんだとわかっていました、しかし高校生活しょっぱなから、なめられたら終いや!とすっかりプログラミングされていたぼくは、地元ではまずまずの進学校だったにも関わらず、ヤンキーがいないにもかかわらず、目の前の状況を認識することができず、当初の予定通りツッパってしまいました。端的にいえば、空気が読めずに失敗してしまったのです。
おかげでぼくはまあ目論見通りなめられることはなく、誰からも一目置かれて、みなぼくを怖がり話しかけられることはありませんでした。ぼくが連れションに誘った彼も僕の舎弟だと思われてしまい、クラスに馴染めませんでした。ぼくはもう一人クラスの地味な男子を捕まえて3人でつるむようになりました。彼ら2人以外とは会話を交わすことのない高校生活はこうしてはじまりました。
連れション男と地味な男には本当に悪いことをしました。彼ら共々ぼくは、10月の学園祭まで、クラスで完全に浮いてしまいましたから。しかし学園祭を通してあの入学式の日の誤解をとくことに成功したぼくらは、それからクラスのみんなにあたたかく迎え入れていただきました。あんな失敗をおかしても、彼らは笑ってゆるしてくれました。感謝しています。

さて、その学園祭までのあいだ、ぼくは基本的に連れション男と地味な男の2人としか学校で話さなかったのですが、もちろん授業で話さざるをえない共同作業が出てきたり、なんとなく隣の席の女子が話しかけてくれたり、事情を知らない他のクラスの人間と仲良くなったり、そういうことはありました。そういう状況の中で、下校時のバスの車内、ぼくと連れションの長い乗車時間を楽しく過ごすためのホットトピックは「きょうおまえ何人と喋った?」でした。
えーっと7人!え、それっておまえ先生も入れてるだろ?入れてねえよ、だって前に先生は抜きって決めたじゃん。いや、先生との会話も授業中に指名された以外だったらアリだよ!それでいいんならおれきょう9人としゃべったサイトウ先生と話したからな!えー!インチキだな!サイトウ先生きょうめちゃくちゃおっぱいでかくなかった?いや、喋ってるとき緊張して乳見れんかったわ授業もなかったしさ。そうだよきょう英語なかったのになんでおまえサイトウ先生と話してんだよ!いつだよ!
みたいな話がいちばん盛り上がるのでした。たまにその人数の多かった方に翌日の昼飯をおごる、なんてこともしていました。

なぜぼくらがしゃべった人の数を競っていたのかといえば、それは暗黙の了解だったのですが、ぼくらはこの逆境をゲームとして捉えることで、なんとか打破しようと思っていたからなのでした。2人とも、地味も入れると3人とも、当時はどちらかいえば人見知りでしたから、人に話しかけるというのはなかなか難しいし、それにお互いに対する恥ずかしさもありました、たとえばぼくが密かに恋していたミサキちゃんに話しかけているところをツレションに見られたら後で馬鹿にされるに決まっています、だからぼくらは暗黙の内にミサキちゃんと話すのは明日の昼飯を獲得するためであって、ミサキちゃんを獲得するためではない、という体裁を整えなければならなかったのです。そのゲームのおかげでぼくらはなんとか日々を楽しめていたように思います。


さて、ぼくは今週、だれとも話していません。本当にだれともです。きょう何人と話したゲームのルールから言うと、レジの店員さんは話した数にはカウントできないので、買い物はかろうじてしていたぼくでも、話した人数はゼロです。
明日は大学時代の友人と会う約束があるので、なんとか今週をゼロで終えることはなさそうですが、月曜からきょうまでぼくはだれとも話していないのです。
寂しくはありません。もともと人見知りだし、さいきんでは慣れない人と話すとそれがたとえ5分でも話し終えたとたんインフルエンザにかかったような倦怠感に襲われるほどです、だから話さないことそれ自体は苦痛ではありません。

ただ、これがいつまで続くのかといえば、それはやっぱり恐ろしい。それはやっぱり恐ろしいです。
だから、きょうも話すべきことなんて、話したいことなんてないのに、こうやって、話せない代わりにダラダラと昔話をしてしまいました。べつに寂しい訳じゃない、でも、やっぱりこれは異常なことだと、感じてしまうんです。