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ひとつ恋でもしてみようか

いつも同じようなことを言っている

1月に読んで良かった本 『消滅世界』、『1998年の宇多田ヒカル』、『映画は父を殺すためにある』

1月も終わってしまいます。さいきんは、日々の過ぎゆくスピードが早いのか遅いのかすらわかりません。一日に区切りがなく、毎日が連綿と続いていくので、時間の感覚に乏しいです。仕事したいですね。
きょうは月の終わりなんで、今月読んだ本で興味深かったものをピックアップして紹介及び感想を吐き出します。

今月はずっと楽しみにしていた著者の本が出ていたので買って読みました。新旧合わせて9冊、仕事もしていないのに読んでる冊数が少ない……。来月はテレビとツイッター見る時間減らして本読んでいきたいと思います。
今月読んだ本のタイトルを読んだ順でリストアップし、その中から3冊紹介したいと思います。

村田沙耶香『消滅世界』
村田沙耶香『きれいなシワの作り方 ~淑女の思春期病』
山田詠美『蝶々の纏足 風葬の教室』
④宇野維正『1998年の宇多田ヒカル』
⑤pha『しないことリスト』
川上未映子『ヘヴン』
島田裕巳『映画は父を殺すためにある』
大森靖子最果タヒ『かけがえのないマグマ』
太宰治『太宰治全集9』筑摩書房

紹介するのは、特に面白かった①、④、⑦です。

①『消滅世界』 セックスが消滅した世界のリアリティ

『消滅世界』は前にもこのブログで取り上げた村田沙耶香さんの新著です(「『消滅世界』出版記念トークイベント 村田沙耶香×雨宮まみ」)。
この小説はセックスが消滅していく日本を描いた寓話で、起こりうるかもしれない未来が描かれており、とても読み応えがあります。
セックスが消滅する未来なんて来るかあ?と疑問に思われる方もいるでしょうが、セックスは現に少しずつ消えていってます。セックスレス、草食男子、オタクなどといった言葉を挙げるまでもなく、性生活に対して消極的な人間が増えている。さらに、人工授精が可能となったいま、生殖のためにセックスをする必要はないと言ってもいい。
欲望を満たすためのセックス、生殖のためのセックスが必要不可欠なものではなくなっているいま、セックスの消滅した世界を描くことには、リアリティがあります。

夫婦間のセックスが「近親相姦」として嫌悪され、「旧来の家族システム」が否定され、都市にいるすべての大人(男性も妊娠可能)からくじ引きで選ばれた人間が一斉に人工授精をして子を孕む……。この小説で描かれる世界はいまに生きる私たちにとってはディストピア的に見えますが、しかし、村田沙耶香の筆致は思いのほかユートビア感を携えています。それは、彼女がこの小説を書いた理由が、現在の性のあり方、家族のあり方、そういった常識によって傷つけられている人々を救うことにあるからではないでしょうか。

もし、あなたが、あるいはあなたの身の回りの人が、現代日本の性や家族制度に傷つけられていたり、疑問を感じているのなら、この村田沙耶香『消滅世界』は癒やしとなり、今後の人生のヒントになるでしょう。


あと、②『きれいなシワの作り方 ~淑女の思春期病』は著者初めての連載エッセイをまとめた本。彼女や彼女の知人友人のエピソードを交えながら、30代以降の女性の身体や心の変化をいつくしむように書かれているので、やさしい気持ちで読めます。
個人的にはこのエッセイの主張が薄いというかほとんどないところが好きです。「〜したいなあ」、「いつか〜になってたらいいなあ」って素朴に文章が締められるんだけど、そういうのがぼくには新鮮でした。

消滅世界

消滅世界

 

 

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病

 

 


『1998年の宇多田ヒカル』 宇多田&林檎の友情、あゆの苦しみ

『1998年の宇多田ヒカル』は、文字通り1998年にデビューした宇多田ヒカルを中心に、同期であり現在も活躍する女性アーティスト、椎名林檎aiko、そして浜崎あゆみを論じた好著です。

音楽ジャーナリストとして長年、彼女たちにインタビューを行ったり、その楽曲やライブをつぶさに聴いて観てきた宇野維正の描く4人の女性歌手たちの歩みは、すさまじくドラマチックです。宇多田ヒカル椎名林檎の知られざる友情や、彼女らのブレイクの影でファンと密な関係性を育みながら4人の中で最も天才的であるアーティスト・aikoのあり方、エイベックスに育てられながらも苦しめられた浜崎あゆみの苦悩が、とてもわかりやすく、そして感動的に書かれています。ぼくは特に、「貧しい日本」に対してJポップで逆襲を試みる椎名林檎の孤軍奮闘ぶりを描いた箇所に心打たれました。

現在の椎名林檎の音楽活動を突き動かしているもの。それは、「貧しい日本」への逆襲だ。聡明な彼女は、自分一人の力だけでそれを果たせないこともわかっている。だからこそ、「Jポップと呼ばれるものを作っていい立場」から、ここにきて椎名林檎は同世代、同期、同窓のミュージシャンたちに共闘を呼びかけているのだ。
私たちの世代は、日本の音楽を取り巻くこの惨憺たる状況に、こんなにも非力なままでいいのか?(P.147)


椎名林檎は、「やっぱりヒカルちゃんがいてくれたらいいなって思うことはよくあります」と言う。椎名林檎という天才が、宇多田ヒカルというもう一人の天才の不在を残念に思い、また音楽をやろうよと呼びかける。なんだか少年マンガのような友情があったことを知りぼくは泣きました。新書で泣くの、はじめてです。

またこの本では、宇多田、椎名、aikoの3人が個人事務所に所属しているがゆえに、ある程度自由に音楽活動をできた一方、浜崎はエイベックスという事務所に入ってたがために、じぶんのやりたい音楽活動を妨げられ、彼女は傷ついたという指摘があります。これは今月起こったSMAPの一連の騒動を見ても頷けるものではないでしょうか。

さらに、本書の最後に出てくる歌詞は、1998年に大ヒットした曲のこの歌詞「あれからぼくたちは 何かを信じてこれたかなぁ」です。この歌詞のように日本の音楽シーンの未来を憂い、そして宇多田ヒカルの帰還を待望する(そして今年実現する!)『1998年の宇多田ヒカル』は、時代と寝ていると言ってもいい本です。

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

 

 
⑦『映画は父を殺すためにある』 アメリカ式、日本式、お好みの通過儀礼はどちら?


最後に紹介するのは、島田裕巳『映画は父を殺すためにある』です。1995年に刊行された『ローマで王女が知ったこと』に修正加筆を加え、町山智浩の解説を収録したもの。2012年発売です。

この本は、アメリカ映画を「通過儀礼」という観点から読み解くことで、通過儀礼の大事さ、そしてそれがしっかりと描けた映画は優れた作品となるということを平易な文章で明らかにしていく前半部分と、アメリカ映画における「父殺し」とは違った形で行われる日本の通過儀礼を描いた邦画を論じた後半部分に分けることができます。

前半では主に、『ローマの休日』、『スタンド・バイ・ミー』、『魔女の宅急便』、『フィールド・オブ・ドリームス』、『いまを生きる』、『愛と青春の旅だち』を扱ってアメリカ映画における通過儀礼が明らかにされます。
ちなみに『魔女の宅急便』は宮﨑駿作品における通過儀礼の不徹底さを指摘するために紹介されています。なぜ、キキは魔法が使えなくなるのか、そしてなぜ再び使えるようになるのか、その説明には大いに不足があり、通過儀礼という観点からいうとキキは、一連の事件を通して何ら成長していない、という厳しい評価を島田裕巳は下しています。

面白かったのは、主人公の親友が通過儀礼(父殺し)に失敗し死を選ぶという悲劇を通して、主人公がその教訓を生かす形で通過儀礼を果たすという、『いまを生きる』と『愛と青春の旅だち』の共通点を浮かび上がらせている点です。通過儀礼の失敗を疑似体験することによって、その成功がいかに大切なことか教え諭すというのは、映画だからこそできることだと言えます。

また日本映画における通過儀礼を見ていく後半部分では、黒澤明小津安二郎、そして山田洋次男はつらいよ」シリーズが取り上げられています。
フーテンの寅さんや小津作品の登場人物たちは、通過儀礼をはっきりとは果たしません。
「彼ら(寅さんや、小津作品の登場人物たち)は自分の思いと現実とのズレに苦しみ、最後には現実を受容しなければならない立場に追い込まれるが、そこではっきりとした変化を経験するわけではない」と島田は言います。変化はゆるやかです。「男はつらいよ」はシリーズ48作を通して寅さんが大人になっていくわけで、これはアメリカ映画の劇的な通過儀礼(父殺し)とはかなり違います。

「自分の世界を守り、それを崩さないかたちで変化をとげていく」。このガンコさを習得していくゆっくりとした過程が描かれるのが日本映画で、試練を乗り越えて大人になるという劇的な変化が活写されるのがアメリカ映画。ぼくはやはり日本映画的な通過儀礼にシンパシーを感じたので、この本の後半は大変楽しく読めました。

あと、町山智浩による解説がすばらしく良かったです。町山が自身の人生を語っているのだけれど、それがそっくりそのまま「父を殺す」という「通過儀礼」の描写になっていて、こういうのってすごくグッと来ます。また、ある種の「父代わり」としての島田裕巳が描かれていて、いい本を読んだなあという感慨に耽ることができるので、解説はぜひ、本編読後に読むことをオススメしたいです。

映画は父を殺すためにある―通過儀礼という見方 (ちくま文庫)

映画は父を殺すためにある―通過儀礼という見方 (ちくま文庫)

 

 
以上です。
来月は映画本をガンガン読んでいく予定です。